目指せ芸人

破壊神1/4《シヴァ・クォーター》

あの子と付き合うために

「俺……芸人になろうと思う」

「どうした急に。芸人? お前が?」

「ああ」

「いや芸人って……出来るのか? お前、そういうの全然詳しくないだろ」

「そうだ。俺はそういう俗っぽいことにすごく疎い。昔から勉強しかしてこなかったからな」

「テレビもろくに見たことないよなお前。そんな真面目一辺倒な男がどうして急に芸人なんか」

「好きな子と付き合うためだ」

「……え?」

「俺の好きな子が芸人が好きだと言っていてな。俺も芸人になれば付き合えるんじゃないかと」

「待て待て待て。え? 好きな子? お前に?」

「そうだ」

「えー……ショックだ。全然知らなかった。親友だと思っていたのに」

「秘密にしてたからな。だがもう隠さない。そういうわけで芸人を目指すので、アドバイスが欲しい。お前に聞くのが一番だと判断した」

「や、まあ、確かに芸人にはそこそこ詳しいけどさ……。まあ、なんだ、仕方ないな。親友のお前のためだからな。相談に乗ってやるよ」

「ありがたい。では早速練習してきたので見てもらいたいんだが」

「本当に行動が早いな……分かった。見せてみ」

「了解だ。では……」

「いや待て。どうして三味線を取り出した。そういう芸風か?」

「……? 何って、義太夫をやろうかと」

「義太夫!?」

「ああ。俺は喋りは上手くないと思っているからな。演奏ならまだ……」

「いやいやいや、義太夫!?」

「ああ。……義太夫は駄目か? 浪曲も一応練習はしたが……」

「いやお前……『芸人目指す』っつって伝統芸能やるやつがあるか!?」

「何!? 芸人というのは『技芸で身を立てる職業人』のことだろ!?」

「現代日本でなんの注釈もなく『芸人』っつったら一般的にお笑い芸人を指すんだよ! 浄瑠璃を好む女なんてそういないぞ!」

「なんだと……。もう弟子入りの準備も始めていたというのに……」

「明後日の方向に全力疾走しすぎだバカ!! 手遅れになる前に断ってこい!」

「ああ、幸いまだどうにでもなるだろう……しかし困ったな、どの芸が好みか分からないから、色々試してみようと傀儡とか買ってしまったぞ……結構したんだが……」

「お前好きな子のことになるとそんなポンコツになるのか……」

「……こんな俺では、やはり駄目だろうか」

「いや、努力は十分伝わったよ。で、お笑い芸人の話だが……」

「ああ。一応コメディアンの勉強もしはしたが……」

「お、やるじゃん! 見せてよ!」

「了解だ。ちょっと待て」

「……オイ、一応聞くがなんだそのちょび髭とシルクハットは」

「? 偉大なコメディアンと聞いて勉強したのだが……」

「チャップリンじゃねーか!! だからそういうのじゃないんだよ!!」

「!?!?!?!? 違うのか!?」

「古すぎるわ!! お笑い芸人ってそういうんじゃないから!! テレビ全然見ないからこんなことになるんだよ!」

「なんだと……黄金狂時代もモダン・タイムスもライムライトも、画面に穴が開くほど見たというのに……」

「努力の方向音痴め……」

「しかし困ったな。最初からお前に聞いておくべきだったか。どんな芸人がいいんだ?」

「直接お前の好きな子に聞けよ……。うーん、お前はもうなんか素で面白いからそのままでいい気がしてきたな……」

「そうなのか?」

「ああ。女の言う『芸人が好き』なんて、結局『面白い男が好き』……『一緒に居て退屈しない男が好き』って意味だからな。お前は大分面白いよ。まあ、主観だけどな」

「本当か!! 付き合ってもらえるだろうか?」

「ああ。きっと上手くいくよ」

「ありがとう! とても嬉しい! 天にも舞い上がる気持ちだ!」

「おいおい喜びすぎだろ。ま、どういたしまして」

「それで、気が早いかもしれないが、初デートはどこに行こうか?」

「おいおい、それこそその好きな子に聞けよ」

「……? だから聞いてるんだが」

「…………は!!!??? アタシ!!!!????」

「ああ」

「ああ、じゃねーよ!! え、何!!??? お前アタシが好きだったの!? 全然知らなかったが!!」

「隠していたからな。だがもう隠さないと言った。お前が好きだ。付き合えて嬉しい」

「おまっ、なんっ……このクソボケ!」

「? 俺がボケか……確かにお前の方がツッコミに向いてそうだな。いわゆる夫婦漫才というやつか」

「めお……気が早いわ!! いい加減にしろ!!」

「どうも、ありがとうございましたー」

「終わらすなーーーーーー!!」


はー終われ終われ

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目指せ芸人 破壊神1/4《シヴァ・クォーター》 @siva_quarter

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