ガンマンの夜明け

サムライ・ビジョン

マグナムが火をふくぜ!!

「今日は一段と…からっ風が強いな」

「ここアメリカっすよ…群馬じゃないんすから…」

世はまさに西部開拓期。砂漠地帯に無理やり作ったこの町に、野郎どもは根づいている。


「どうだクライド。今日は非番だし、一杯ひっかけにいくか?」

「オレはクライドじゃなくてマイケルですってば!」

「なんだ? もしかしてガールフレンドのボニーちゃんと約束があるのかい?」

「オレを蜂の巣にするつもりっすか!? 『ボニークライド』の話はやめてください」


2人の男は酒場に入った。太陽は天高く昇っているにもかかわらず…だ。


「マスター、いつものあるかな?」

マスターは無言でボトルを取り出した。

「今日はロックの気分なんだ」

「ジョニーさん、それなんすか?」

「ウーロン茶」


かんかん照りのコロラド州。ジョニーはウーロン茶で泥酔する特殊体質であるがゆえに、人のまばらな酒場で愚痴を垂れはじめた。


「マスターよぉ…俺ぁ銃の腕前には多少なりとも自信があんだ…けどよぉ? 女の子の心を撃ち落とす腕前だけはまるでねぇ…」

マスターはグラスを拭いながら相槌をうつ。このようなとき、マスターはだいたい人の話を聞いていない。


「なぁマスター、教えてくれよ。俺の魅力って一体なんだ? リアルなマグナム? それとも下半身のマグナム?」

「…全部、だと思うがな」

マスターはここにきて初めて口を開いた。


「全部って? 顔ぉ? 筋肉ぅ? えへぇ…全部が魅力的ってかぁ…」

(この人の情緒がまったく分からん…)

マイケルは呆れつつバーボンのショットグラスを傾ける。

そのときだった。


「見つけたわよジョニー!」

酒場に乱入してきたのはジョニーの因縁の相手…「カウガール」のシルビアだった。

「おー、シルビアじゃないの…マスターがさぁ、俺は魅力的だって言ってくれてさぁ…」

「バカね! マスターはリップサービスしてくれただけよ! そんなことより外で勝負よ! どっちが正確に撃ち抜けるか!」

ジョニーとシルビアは幼馴染の腐れ縁。彼らは共にマグナムを扱う宿命であった。


「…いいだろう。マスター、今日もツケといてくれ」

ツケ、3日目。マスターは無言で頷く。

「からっ風がすさまじいぜ…」

「だから違うって…」

「あそこに鳥がいるから、あれを標的にしましょう!」

シルビアがそう言った途端…


スルスル…


「ちょ…ジョニーさん!?」

「ん? …へっ!?」

マイケルとシルビアが目にしたのは、正真正銘…ジョニーのだった。


「やだ…ちっっっさ…」


シルビアは口から手榴弾を投げてきた。

それはジョニーの心にすっぽりとはまり、そのまま撃沈ゲキチンした。


「マスター…自分が情けねぇよ…」

ジョニーはさっそく愚痴りはじめた。

「いや…そんなことはないさ」

「え?」

何を言うのだろうと、マイケルも次の言葉を待っている。

「あんた…あのが『鳥を標的にする』つったから、ああやってマグナム取り出して戦意喪失させたんだろ?」

「え、そうなんすか?」


ジョニーは驚いた。鳥1羽のために狙撃をためらうガンマンがいるだなんて…と。




「いや? シルビアに見せたかっただけ」


所詮は、酔いどれの戯言ざれごとであった。

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