大丈夫、また一歩 後編

町の人に連れられ、向かったのは……。

体育館……、今は遺体安置所になっている場所だった。

「尊! 尊!」

父は尊の頬に手を当てる。

沙月もそれとなく兄であった尊の手を触れる。

「冷たい……、冷たいよ、お兄ちゃん……」


変わり果てた尊に、二人は号泣する。

「だが……、見つかっただけでも良かった」

周りには、行方不明の人に対して情報提供を呼び掛けている人が多い。




奏恵は、おじいさんに会った。

「なんで……、なんで津波なんか見に行っちゃったの!」

泣きながら質問をする。

答えは帰ってこない。


だが、恐らくは好奇心だろう、と奏恵はわかっていた。

おじいさんに続き、そのまま津波に飲まれた人は何人もいたという。

だが、半分ぐらいしか見つかっていなかった。


「ねえ、お父さん……」

「どうした?」

「私、色んな人の役に立ちたい。炊き出しとか手伝ってもいい?」

「もちろんだ!」

奏恵は避難所の炊き出しを手伝うようになった。


「奏恵……」

「沙月、どうしたの?」

「今度、引っ越すことになったんだ……。新しい場所で再スタートしよう、ってお父さんが」

「……そう、なんだね……、でも、大丈夫! また会えるよ。きっと」

「ありがとう、奏恵! 奏恵は最高の親友だよ」

「沙月がいなくなるとすっごく寂しいけど、ずっと親友だよ!」

「うん、もちろん!」


ほどなく、沙月は家族で引っ越していった。


「チョコ……、寂しくなっちゃったね」

「くぅーん?」

チョコはされるがまま、奏恵に撫でられて尻尾を振る。


窓から光が差す。

「青空が広がってるなぁ……」

そして、ふと見える。

「あ……、桜だ……。そっか、そんな季節なんだね」

「ワンッ!」

チョコは散歩に誘う。

「うん、行こうか」


チョコと散歩に出る。

「そうだよね……、ずっと時が止まってるわけじゃない。……また進んでいかなきゃ」

奏恵は小さくうなずく。


それから数年。

奏恵はおじいさんの墓参りに来ていた。

「あ……!」

「奏恵っ!」

ぎゅっと抱き着いてくる。

それは、親友の沙月だった。

「今日はお兄ちゃんのお墓参りに帰って来たんだ!」

「そうだったんだね!」

「あ、見て!」

「ん?……あ、桜のつぼみだ!」

「あれからも、私たちの時は続いているもの。悲しいとか寂しいとか、また震災があったら怖い、そう思うけど……、それ以上に私たちはまだ生きているんだからさ」

「うん。前を向いて歩いていかないとね」

「うん!」

二人は青空に目を細めた。



 東日本大震災で亡くなられた方のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。 

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大丈夫、また一歩 金森 怜香 @asutai1119

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