好きな人に告白したら無茶な要求をされた件

田中勇道

好きな女性に告白したら無茶な要求をされた件

「好きです。俺と付き合ってください」


 日の傾きかけた公園で俺は好きな人に告白した。高校生のときに惚れてからなかなか想いを告げられず、結局三年も経ってしまった。

 彼女は表情を一切変えることなく俺の目をじっと見ている。平静をよそおうのもキツくなってきた、早く返事をくれ。体感的に二十秒ぐらい経っただろうか。彼女はようやく口を開いた。


「私のお願いを聞いてくれるならいいですよ」

「お願い?」

「はい」


 一体なんだろうか。まぁ付き合えるなら別にどんなお願いでも構わない。


「今後、やむを得ない事情で私と別れることになってもいいのであれば付き合います」

「……ごめん、ちょっと説明してもらっていいかな」


 なぜ別れる前提なのか。聞き間違いじゃないよな。


「え、私の返事わかりにくかったですか?」

「いやわかるよ。ただ、内容の意味がよくわからなかったっていうかさ……やむを得ない事情って何? ケンカとか?」

「あなたの浮気で私が精神的ショックを受けたときです」


 どういうこと?


「なんで俺が浮気する前提なの? そんなことしないから」

「でも、何年か経って気が変わる可能性もあるでしょう?」

「心配しすぎだって。絶対ないから」

「世の中に絶対はありませんよ」


 急に正論を述べられると返す言葉がない。そりゃそうだけど、このタイミングで言うか? 今まで高鳴っていた心臓の鼓動もすっかり元通りになった。


「あと『付き合ってください』って遠まわしに『俺と付き合え!』みたいに言われてる感じがして、なんか嫌なんですよ。『~してください』と『~しろ』ってニュアンス一緒じゃないですか」


 じゃあ、どう告白しろと? 俺の疑問を察したのか、彼女は少し考えてから言った。


「個人的には『わたくしと付き合っていただけませんか。宜しくお願い致します』がいいですね」


 長いし堅苦しい。ビジネスマンじゃないんだから。


「えーと、なんだ……別れる前提なら付き合ってくれるの?」

「結論だけ言うとそうなりますね」

「だったらフラれる方がマシだよ!」

「でも、断るの申し訳ないじゃないですか」

「別れる方が辛いからね。わかって言ってる?」


 この子、どんな思考回路してんだ。頭ヤバすぎるだろ。


「あ、言い忘れてました。私、もう彼氏いるんです」

「それを先に言えや!!」


 二股しようとしてたのかよ。マジで何考えてんだ。


「正確には『彼氏がいた』ですけどね。昨日別れました」

「……ああそう」


 ここまでくるともはやどうでもいい。


「そういうことなので付き合ってもいいですよ」

「ごめん、この告白取り消すわ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きな人に告白したら無茶な要求をされた件 田中勇道 @yudoutanaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ