賭けごと

松井みのり

賭けごと

 筧少年は生まれながらのギャンブラーである。そろそろ八歳になる筧少年もそれを自覚しており、彼の両親もその性格を受け入れている。

 ちなみに、両親はギャンブル好きではない。両親はテレビゲーム内のギャンブルにも勝った経験がなく、むしろ金銭の関わるギャンブルには興味が全くなかった。

 筧少年がはじめてギャンブルというものを知り、夢中になったのはわずか一年半前のことである。

 テレビ中継されていた競馬だ。

 どの馬が一位になるのか。馬や騎手に関する知識は一切なかった。しかし、予想するのに熱中した。勿論まだ児童である彼が、金銭を賭けることはできない。全力で賭けたのは、彼自身のプライドだけである。

 筧少年は第六感のみで賭ける。

 それこそが、筧少年にとって面白いものであった。

 答案には必ず理由が必要だ。国語の感想文でも、「こんな物語だったから、こう思った」と書く。算数の計算でも「こんな問題文だから、こんな計算式で答えを求める」ということが要求される。

 しかし、第六感で挑むとき、理由なんて不要だ。

 そして、結果は理由を裏切る。それにひどく興奮した。

 筧少年自身は、この感情を他人に上手く説明できるわけではない。しかし、彼がギャンブルを楽しむ理由は、このスリルがあるからだ。勝敗は関係ない。

 最初はテレビ中継の競馬からはじまった賭けだが、野球、サッカーと続き、ついには、誰が給食を一番最初に食べ終わるか。ということまで予想していた。

 しかし、この筧少年にも賭けることが出来ないものがあった。

 花占いである。

 きっかけは初恋だ。

 筧少年は、恋とは如何なるものか。ということを、わかっていない。

 二ヶ月前に、社会科見学のときに乗ったバスで、隣の席に座っていた華ちゃんの顔に見惚れてしまったのだ。そして、「両想いだといいな」とも思ってしまった。

 華ちゃんの気持ちが知りたかった。しかし、告白する勇気も方法もわからない。

 以前から、花占いの存在は知っていたが、女子の遊びと考えていて、筧少年の興味の対象には入らなかった。

 その花占いに挑戦したい自分がいる。

 いつも通りに、第六感で花を選び、「好き」「嫌い」と、ちぎっていくだけ。

 それができない。ただの賭けごととわかっていても、何か心に重みがついたような感覚で、花占いをする勇気がないのだ。

 しかし、二ヶ月間、一人で悩んだ末に彼は一つの結論を出したのだった。

「もし花占いで負けても、俺の両想いになりたい気持ちは変わらない」

 今、これから、筧少年の人生を賭けた勝負がはじまる。きっと、彼の第六感は武器になるのであろう。

 この勝負にはプライドやスリルを楽しむ余裕はない。

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賭けごと 松井みのり @mnr_matsui

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