第12話 綿原 登場
純たちは陽キャ組が意見をまとめるまで龍樹たちと駄弁っていると、ようやく決まったのか、いかにもクラスでモテていそうな美男子の一人、
「文化祭でやる縁日について僕たちの方でまとめてみました」
笠原が決まった意見を読み上げていくと、その後ろで綿原智絵が黒板に書いていく。
「あの2人最近付き合ったらしいぞ」
そんなことを龍樹が純に教えてきた。他人の恋愛にあまり興味がなかった純は「へ~」と言って軽く流していた。
純と笠原に接点はない。だから純にとって笠原が誰か付き合おうと興味すら抱かなかった。学校で一番の美女とも言われる綿原に対してもそれは同じだった。クラス、いや学年でも綿原に対し好意を抱く男子は多いが、純は感心すら持たなかった。
純からすれば、いくら美人であっても何を考えているのか分からない人よりも、紗弥加や夢花、遥夏などといった身近でいる人たちの方がよっぽど好感は高い。
「意外にくっつくの早かったな」
「……必要ないか」
「何が?」
「いや、なんでもない」
夢花にラブコメを書くように言われた純はネタを探していた。純の周りで付き合っている友人たちは一人もいないからだ。
紗弥加は純へ好意を抱いているが、純は今のところ誰かと付き合う気は一切ない。夢花は父の影響で異性との交流関係が少ないことに加え、本人も恋愛する気はない。遥夏は何を考えているのか分からない。龍樹は姉が誰かと付き合うまで恋人は作らないとか言っているよく分からないバカなので論外。
つまるところ、純はネタ不足であった。それで、笠原と綿原のことをネタにしようかと一瞬考えたもののすぐに辞めた。美男美女はくっつくのは物語としてあまり面白くはないと思ってしまったからだ。
そんなことを考えている間に綿原が書き終わったらしい。黒板には以下のようなことが書かれていた。
・縁日
・焼きそば、フランクフルトやジュースなどといった飲食の屋台
・わなげや射的などの遊べる屋台
「教室の広さや、経費的に屋台1つずつしか出せないと思うんだ」
作り置きならまだしも当日作るとしたら調理場もそれなりに必要になる。どの料理にしろ材料費はかかるからあまり多くは作らない方が良いのだろう。
「それでとりあえず僕たちの方で案を出しみたんだけど、食事は焼きそばにして、飲み物はたくさんジュースを用意してコップに入れて販売しようかなって思ってる。遊びの方は子供でもできるように射的にしようと思うんだけど、みんなはどうかな」
誰も反対するつもりはないようで誰一人といて手を挙げて意見を出すものはいなかった。
「じゃあ、これで行こうと思う」
こうして純は特に発言をすることもなく文化祭の催し物が決まった。その後、夏休み中の各自の分担が決められた。仕事の内容としては、焼きそばの材料費を始めとした経費の管理、部屋の装飾づくり、焼きそば、ジュースの屋台づくりと、射的の屋台の大きく分けて4つに分けられた。
文化祭当日の役割に関しては、焼きそば作りは料理がうまい人たちでやることになり、残りの人たちは接客と看板を持って宣伝などに回されることとなった。
純は夏休み準備では射的の方を担当することになり、龍樹や遥夏、そして綿原とも一緒になった。文化祭当日に関しては料理ができない純や龍樹は客の呼び込みの担当、意外にも料理の上手である遥夏は調理担当となった。
仕事分担も早く終わったことで残りの時間を好きに使ってよいことになった。純は龍樹、遥夏とどうするかといった相談をしているところに綿原がこちらに近づいてきた。
「……初めましてでいいのかな?
純を含め他2人も綿原と同じクラスではあるが一度も話したことはなかった。
「同じクラスなのに、初めましてって変だね、私遥夏、よろしくね」
基本的にどこのグループの輪にでも入れる遥夏のおかげで純も戸惑うことなく挨拶ができた。
「菱村純です。よろしくお願いします」
綿原がいつもいるグループは陽キャの集まりだ。だから、話したことはないがイメージ的に綿原も元気系の人かと思ったが、そうではないらしい。礼儀正しそうで大人しく見える。あのグループにいるというのが信じられないぐらいだ。
「それで、どうしましょうか?」
純たちに課せられた仕事は、主に射的のゲーム内容と景品の準備だ。屋台の設営とかは具体的に射的をどんな風にやるかを決めてからもっと多くの人数でやり始める。最初から人数を多く回してほしかったのだが、純たちの方は4人で開始となった。
「予算も多くはかけられないでしょうから、景品は安上がりのものが良いですね」
本物の祭りで見るような豪華な景品などは当然用意できない。文化祭であるのだから多くの客に合わせて景品は量が必要になる。
「でも、それだとやりたがる人いるかな?」
「その辺はやりようなんじゃない?」
遥夏の心配をよそに、何かを考えていたのか龍樹が口に出した。
「景品は基本的に安いお菓子でいいと思う。ただそれは小さい子供でも狙えるぐらいの難易度にする。それで難易度が高いものはやきそばの割引券を用意すればいい」
「それなら、焼きそばを食べようとしている人もお得だから射的やってくれる人がいるかもね」
「ただ、勝手に割引券を景品にしていいかは分からないけどな」
「じゃあ、私聞いてきますね」
綿原が進んでちょうど近くを通りかかった笠原に聞きに行ってくれた。
「陽キャのグループかって身構えてたけど良い子で良かったよ」
綿原が席を外したことで気を緩めだす龍樹。
「何であのグループの連中といるんだろうな? どっちかというと大人しい方のグループにいそうだけど」
清楚系の綿原が熱血系の笠原、その他いつも楽しそうにワイワイしている人たちといるのは傍から見れば不思議に思える。どちらかと言えば、彼らのグループよりもお嬢様みたいなグループにいた方が似合っていると思う。
このクラスには比較的お嬢様と呼べるひとたちは少ないが、この学校にはそういった人たちも多くいる。純や龍樹たちは違うが、この高校は中高一貫校と呼ばれるところで多くの生徒が中学からの付き合いのまま高校へと進学してくる。
伝統ある高校なので経済力に豊かな生徒が集まることが多い。龍樹も遥夏も家庭がちょっとした金持ちであるので、ここに通うことができている。だからといって、経済力がない人が通えないかと言われればそういうわけでもない。
成績上位者や、部活動などで活躍する人たちには学費が免除されることもある。純が免除されている学費もその一部の恩恵だ。純の家計は苦しいわけではない。父と母が残した財産もあり、義父の稼ぎも良い方だ。けれど、義父に気を遣って学年一位を死守しようとしている。
「彼らは私の幼馴染たちなんですよ」
龍樹の言ったことが聞こえたのか少し笑いながら純たちの方へと近づいてきて椅子に腰かけた。
「あ、ごめん。悪く言ったつもりじゃ」
「ええ、分かってますよ。今までも色んな人に言われたので慣れてますから」
「俺、思ったことすぐに口に出しちゃうからさ、……気に障ったよな?」
両手をぶんぶんと振って「大丈夫です。謝らなくていいです」と頭を下げようとした龍樹を必死を止めようとしている。
「そんなことよりも、笠原くんからOKもらいましたよ。……龍樹くん、いえ、榎原くんの案でいきましょう」
初対面だというのに龍樹と間違って呼んでしまったのか顔が赤くなってすぐに「榎原くん」と言い直す綿原。
「別、俺のことは龍樹でいいぞ。遥夏も純もそう呼んでいるからそっちのほうが慣れているからな」
「そうですか? じゃあ、それなら私のことも智絵と気軽に呼んで下さい」
ずいぶんと積極的な女の子だと純は思った。彼氏がいるというのに龍樹にグイグイといっているようにも見える。あのグループにいられるのも納得だな。
「綿原がそういうなら俺は別に構わないよ。じゃあ智絵よろしく」
「……はい。お願いします。龍樹くん」
「あの、2人の空間作ってるところ悪いんだけど、私たちもいるからさ……」
2人だけの微妙な空気感が流れ少し居心地が悪く感じたが、遥夏が突っ込んでくれたおかげで空気感がもとに戻った。
「ごめんなさい。じゃあ、早くやりましょうか」
その後純たちは夏休みの間にやることを決めていった。
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