第3話 バレてしまった夢

 家に着いた純はすぐに郵便ポストをチェックしに向かった。しかし、評価シートはその中に入っておらず、まだ届いていないようだった。


(おかしいな、いつもだったらこの時期ぐらいには届いているはずなのに……)


 家に入ると玄関にはすでに靴が一足、きちんと並べて置かれていた。


(帰ってきているのか……)


 純の父親は弁護士で基本的には帰ってくるのが遅い。しかし今日のように仕事の出来によっては早く帰ってくることもある。


 純は父親とはあまり仲が良くなく、あまり家に帰ろうとしない理由は父親とあまり話をしたくないためであった。


「ただいま」

「おかえり、純くん、荷物置いたらこっちにいてくれるか?」


 最近では会話することも珍しかったが、その上父親から話しかけてくることなんて特になかった。


 荷物を自分の部屋に置き、リビング向かうと、父親は机の前で座って待っていた。


「何か用?」


 父親が目でそこに座れと言ってきたのを感じ、純は机を挟んだ向かい側の椅子に座った。


「純くん、これはなんだ?」


 父親が机に置いたものは、純が今日回収しようとしていた評価シートだった。


「純くんは小説家になるつもりなのか?」

「だったら何?」


 突然のことで動揺したが、そのことがバレないように平然な顔で返答した。


「純くんになれるわけないだろ」

「そんなん分かんないでしょ」

「じゃあ、これはなんだ」


 父親は評価シートのある部分に指を指した。


「一次審査すら落ちてるのに小説家になれるわけないだろ」

「たまたま今回落ちただけで次は通過でき……」


 純の言葉を遮るように父は机の上にバラバラとたくさんの紙を巻き散らかした。


「たまたまだ? 全部見たが、どれも一次落ちじゃないか」


 目の前に広がっているものは今まで送られてきた評価シートの数々だった。もちろん、それはすべて一次落ちのもの。


「勝手に机を漁ったの?」


 これらはすべて机の引き出しにしまっておいたものだ。だから、父が探そうと思わなければ絶対に見つかるはずがなかった。


「勝手に見てしまったのは悪いと思っているが、お前に才能がないのは事実だろ」

「僕に小説の才能がないことなんてとっくに分かってるよ。それでも僕は小説家になりたい。それの何が悪いの?」

「お前には他に才能があるだろ。なぜそれを活かさない」

「小さい頃から勉強しろと言われれば、ちゃんと勇人はやとさんに従って勉強してきた。だけど、なんで将来のことまで勇人さんに決められなくちゃならない」

「それが母さんとの約束だからだ」


 純の母親は純が中学1年の時に亡くなった。原因は病死だった。


「だから、お前も父さんや母さんみたいな教師になるんだ」


 親が教師だからって何故子供が教師にならなくちゃならないのだろうか。純は教師になりたいだなんて思ったことは一度もなかった。


 純ははいつも勉強しろ勉強しろって言ってくる父親に嫌気がさしていた。純が勉強をしているのはあくまで学費のため。将来のために勉強をしているわけじゃない。


「おい、ちゃんと聞いているのか?」

「だから今までだって何度も言ったじゃん、僕は教師にはならないって」

「親の言うことが聞けないのか」

「うるさいよ。親が親がって、本当の父親じゃないんだからほっといてよ」

「純」


 義父である勇人が純を呼び戻すような声が聞こえたがそのまま振り向くことなく、自分の部屋へと戻っていった。


     *


 純の実の父親は、純が小学生の頃に交通事故で亡くなっていた。今の義父とは小学4年生の時に母親と再婚した。しかし、その母も亡くなり、今では義父と二人きりで住んでいる。


「反対されるとは思っていたけど、あそこまで言われるとは思わなかったな……」


 心のどこかでは応援してくれるんじゃないかって、そんな期待を純は心のどこかでしていた。血は繋がっていないとはいえ、もう何年も一緒に暮らしているのだから義理の息子である純の夢を尊重してくれるのではないかって勝手に思っていたのだ。


 あの人なりの優しさは今までも垣間見えていたから。


(それよりもこれからどうしようか……)


 小説家を目指していることがバレた以上、一緒に暮らしている義父とこのまま、ケンカみたいな状況でいるわけにもいかない。


 だけど、こういう時どうすればいいか全く思いつかなかった。今まで多少のすれ違いはあったものの、今回のような直接何かを言い合うみたいなことはしたことがなかった純にとって、どのように対処をすればいいか分からなかった。


(誰かに相談した方が良いんだろうけど……)


 電話をするなら小説家を目指していることを知っている人が良い。その方が話が早いからだ。けれど、年下の柳井さんに相談するのも情けなく思う。残りの2人もこういうことの相談は向いてないだろう。だとすると、純の頭に残ったのはあの人だけであった。


 純がその人に電話を掛けようとしたとき、スマホがピコーンとなった。スマホに届いたメッセージは純の大好きなVtuberが30分後に配信をするとのお知らせだった。


 “うすいさち”、本業はイラストレーターにして、Vtuberとしても活躍している今人気のある人物。純がこの人のことを知ったのは中学2年生の春のことだった。


 母親を亡くして気分がどん底の生活を送っていた時に親友の龍樹たつきに紹介してもらった。


 龍樹にその時言われたことを今でも覚えている……

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