第23話

しかし、奏は止まろうとしなかった。



トラックが迫って来る中、蟻の行列を守るように歩道の真ん中でうずくまってしまったのだ。



「奏!!」



叫ぶ。



しかし奏は動かない。



トラックが接近し、クラクションが鳴り響く。



後に起こった出来事はすべてがスローモーションだった。



トラックの甲高いブレーキ音。



周囲の人たちの悲鳴。



奏の体がトラックの先端にぶち当たり、フロントガラスにめり込んだ。



そのまま空高く跳ねあげられて、無力なまま落下する。



大きくハンドルを切ったトラックは反対側の電柱に衝突して停止し、白い煙を上げた。



奏の体は次の乗用車にも跳ね飛ばされ、数メートル先でコンクリートに打ち付けられた。



バラバラな方向を向いた手足。



頭部から広がり出る鮮血。



それでも……奏の顔は笑っていて、その目は轢かれることなく無事のままでいた蟻の行列へと向けられていたのだった……。

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