第12話
あたしもそうだ。
あれだけの才色兼備の欠点が、まさか男好きだったなんて……。
それでも、あたしには関係のないことだった。
ただ1つの不安は明日の学校だった。
大山君と付き合い始めたことも特別隠している様子はなかったから、今回のこともすぐにみんなにバレてしまうかもしれない。
そうなるとクラスの雰囲気が悪くなるかもしれない。
彼女ひとりにはそんな力があった。
「じゃ、また明日な」
気がついたらもう家の前で、柊真と手を振って別れたのだった。
☆☆☆
「荷物持つよ」
「ありがとう」
「喉乾いてない? 甘いジュース買って来たけど飲む?」
「もらおうかな」
その様子を唖然として見つめているのは他の生徒たちだ。
あたしもその中のひとりになって廊下の中央を歩いてくる大西さんを見つめた。
大西さんの左右には昨日の男がいて、甲斐甲斐しく世話をやいているのだ。
こわもてな顔2人が大西さんへ向けてヘコヘコと媚を売り、笑顔を向ける。
その光景は異様なものだった。
「なんだこりゃ」
そう言ったのは遊星だった。
遊星も3人の様子を見て目をパチクリさせている。
「なにがなんなんのか、あたしにもサッパリ……」
昨日の放課後あの2人が大西さんに声をかけた時。
あの時は少なからずこんな雰囲気ではなかった。
むしろこれから大西さんを傷つけてやろうという雰囲気が伝わってきていたのに、今日は打って変わっている。
「ちょっと、あれはどうなの……?」
「大西さんってあの2人と仲がいいの?」
「それじゃもう声をかけられないね」
大西さんのとりまきだった女子生徒たちがひそやかに噂しはじめる。
「ちょっとあんた!!」
誰もが振り向くような怒号が聞こえて来たのはその時だった。
振り向くと、廊下の反対側から3人のギャルたちが大股に近づいてくる。
その空気に圧倒されて思わず道を開ける生徒たち。
ギャル3人組は大西さんの前で立ちどまると、睨み付けた。
一側触発だ。
「奏、どうした?」
男の一人が真ん中のギャルへ向けて声をかける。
奏と呼ばれた女子生徒は金髪のフワフワパーマを肩まで垂らしている。
「どうかしたって……おかしいじゃん!」
奏は意外にも泣いてしまいそうな声でそう言った。
「おかしいってなにが?」
男子の方は全く理解できていない様子で、ただ首を傾げるばかりだ。
「あのギャルの子と男子って付き合ってるよね」
そんな声が聞こえてきて納得した。
どうやら大西さんに手を出した男には彼女がいたらしい。
この奏という子がそうみたいだ。
あたしは呆れてため息を吐きだした。
恋人がいるのに他の女子生徒に下心丸見えで声をかけるなんて、論外だ。
「あんた。ちょっとこっちに来なよ」
奏という少女は大西さんへ向き直り、華奢な手首を掴んだ。
大西さんはキョトンとした表情を浮かべて素直についていく。
「それなら俺も行く」
そう言ったのは奏の彼氏だった。
「はぁ? あんたがこの女いたぶってくれんのかよ!?」
奏の取り巻きが声を荒げて言った。
今から繰り広げられる乱闘を想像してうろたえる生徒たち。
いや、乱闘ではなく単なるイジメかもしれない。
「ちょっと、先生呼んで来ようよ」
そんな声に振り向くと、ヒナが立っていた。
廊下の騒ぎを聞きつけて教室から出て来たみたいだ。
「うん」
あたしは短く頷き、ヒナと2人で職員室へと急いだのだった。
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