ゴポ……。

一陽吉

音、そして……

 小さいとき。


 私はお風呂の湯船でおぼれたことがあるという。


 ぐったりして一時は動かなくなったみたいけど、すぐに笑い出して何事もなかったかのように振る舞ったらしい。


 それによる後遺症なんかもなく、今はこうして普通に公立の高校に通っている。


 ただ、それが原因かは分からないけど、私は他の人が見えないものが見える。


「今日もいい胸だったぜ。順調に育ってる」


「……」


 クラス替えで同じ組になったあの男。


 今日も偶然を装って、私の身体からだに触ってきた。


 女子とみれば見境みさかいがない。


 はっきり言っていや


 気持ち悪い。


 いくら私がにらみつけても、やめようとしない。


 いっそ、死ねばいいのに。


 ──ゴポ。


 私の脳内で大粒の空気が動いたような音がした。


 その音が聞こえると十三秒以内に、あれが見えるようになる。


 にごった灰色の光。


 今回は、窓と天井のかどね。


 光といっても本質は液体らしく静かに揺れていて、もやもかかっているけど、誰も気づいていない。


 そして、手の平くらいあるそれは線となって私に飛んでくる。


 速さは子どもがゴムボールを投げるくらいゆっくりで、運動神経が並の私でも回避できる。


 だから私はいつも直前で避けている。


 そうすれば、光は床や壁にあたって飛び散り、何の問題もない。


 だけど、光を人なんかの生き物が受けると、効果があらわれる。


「あれ? 肩に何かあたったか?」


「……」

 

「まいいや。そんじゃ帰宅部の俺はお家で気持ちよく活動するとしますか」


「……」


「なんか外の風が強そうだな、て──」


 ガシャーン。


「う、わああー!」


「……」


「窓ガラスが手に、いてえぇ! いてえぇ!」


「……」


「ああああああああああああああああぁー!」


 これでもう触ることはできないわね。


 しゃべりたくない私はずっと目で警告してたでしょう。


 それを無視したあなたが悪いのよ。

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ゴポ……。 一陽吉 @ninomae_youkich

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