今日も頭上に宇宙人が座ってる

古博かん

第六感——それは五感を超越したナニカ

 視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。これらをまとめて五感と呼び、地球上の生命体は大体これらの感覚を駆使して生活しているらしい。

 そんな五感では説明しきれない、理屈のはっきりしない感覚を「第六感」などと呼んでいる。


 時に鋭く冴え渡り、何かしらの現象を事前に察知したりする能力あるいは「超」能力——……はあ、地球の生命体とりわけヒトという連中は、進化の過程で厨二心を爆発させてきたらしい。


 そんなもの、説明できなくて当たり前だ。

 地球の生命体にそもそも「第六感」なんてやつは存在しない。


 連中がそう「呼んでいるもの」は、たいてい頭の上に乗っている我々「地球外生命体」がその正体であるからだ。


 無論、極々微小な我らの存在は連中の低倍率の視力では、そもそも目視などできっこない。開発されたスーパーカミオカンデとかいうやつなら、あるいは一瞬映るかもしれない。

 試したことはないから知らんけどな。


 まあ、日々何やかんやで降り注ぐ宇宙線に時々こっそり混じって、適当に気に入った生命体の頭上で賃貸暮らしをしているわけだが、その賃料として時々、家主の人生に役立ってやっているわけである。

 中にはコロコロ物件を変えるヤドカリのような生命体もいるし、何をトチ狂ったのか「ヒト」以外を選り好みして借りたがる珍妙な連中も多い。


 十年ほど前に突如「俺、馬になりたい!」と叫んで当時借りてた物件を飛び出していった物好きがいたが、あの時は随分と世間を騒がせたものだ。


 やつは本当に馬の頭上を借りてしまい、それがまたいたく気に入ったようで、家主とも意気投合し非常に良好な関係を築いた結果、大いに世間を騒がせたものだ。

 あまりに奇行を繰り返すものだから、流石に普段は鈍感な人間どもも「あいつ、本当は人間なんじゃないか……」と馬の正体に疑いを持った程だった。


 まあ、一回の徒競走で百二十億だかいう大金が一瞬で紙屑同然になったのだから、大いにやり過ぎたというものだ。

 馬の頭上のヤツよりも、馬の上に乗ってたヤツの頭上に座ってたヤツの方が「お前、ほんと無茶苦茶だよ。勘弁してくれよ……こっちは平和に暮らしたいだけなんだよ」などと落ち込み過ぎて見ていられなかったものである。


 因みに、吾輩が間借りしている人間はというと、この時、テレビ中継を見ていて真っ白に燃え尽きていた。

 その後は、ネジが何本か飛んだように笑い始めて「分かってた! 分かってて賭けた俺が悪い!」などと達観していたが、もちろん吾輩は賃料代わりに一応事前に「今回はやめておけ」と忠告はしてやった。

 そんな忠告も人間の高揚した業の前では、時に無力なものである。


 ああ、そうそう。

 あのヘアドライヤーだがヘアワックスだか、ああいうのは正直ほどほどにやめてくれと思う次第だ。特にその後の清掃が行き届かないなど言語道断である。


 一応こちらも間借りしているとはいえ歴とした生命体、必要最低限生活に必要な快適空間は提供してもらいたいというのは至極当然の要求だ。

 あまりに度が過ぎる際には、自力で環境を整えなければならず強硬手段として毛根から頭髪を引っこ抜くという荒技を展開しなければならない。

 こちらも無意な労力は使いたくないし、お互いのためにならないので何とかしてもらいたいものである。

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