短編64話  数ある謎のロカりなこの感覚は!

帝王Tsuyamasama

短編64話  数ある謎のロカりなこの感覚は!

(やはり……やはりそうかっ……!)

 俺こと水瀬みなせ 雪俊ゆきとしは、中学校入学祝いのときに父さんが買ってくれた、分厚くて赤い表紙の国語辞典を、ゆっくり閉じた。

 学生服からまだ着替えていないが、イスの背もたれに深くもたれて、腕組みしながらちょい斜め上を見上げた。

(人間は五感……すなわち、じろじろ視覚・ほうほう聴覚・さわさわ触覚・もぐもぐ味覚・くんくん嗅覚、以外にもキュピィーン! 第六感があるのは、間違いないのだな!)

 辞典に載ってるんだから、俺にも備わっているんだよな!?

(第六感が働いているのはわかった。でもだからといって、なにをどうすればいいのだろうか……)

 俺が『第六感』について、調べようと思ったきっかけ自体は、大したことではなかった。

 今日教室で、クラスメイトたちによる第六感トークがあったからだ。

 昨日テレビで、武道の達人のおじいちゃん的な人が、目隠し&耳栓しても、背後からの敵を察知できるか~みたいな企画があったことから。

 でもたったそれだけで辞典を引っ張ってきたかといえば、そういうことでもない。

 俺は最近……具体的には、この前の秋ぐらいからだろうか。それまでに知らなかった感覚が、毎日続いていたことに気づいたんだ。どうにもよくわからず、もやもやしていた感じだったのだが……そうかこれが第六感っていうやつなのか!

 ……とまあ、わかったのはいいことなんだが、正直なところ、これ毎日第六感ってる(便宜上、『ロカってる』とでも名づけておこう)から、制御する方法が知りたいんだが。

 それにしても、毎日ロカりすぎている気がする。言ってしまえば、落ち着かないって感じだ。

 寝ても起きても。学校でも家でも。常にどこかでロカってる感じなんだ。

(う~む。でもひとまず言えることは……)

 明日国語ってことは、十問だけのミニテストがあって、凛花りんかにまた点数見られるのか……



 次の日。

 ランチルームでの給食の時間が終わり、たくさんの学生たちに紛れて、俺も食器を片づけ終えると、凛花と目が合ってしまった。

 凛花とは春屋はるや 凛花りんかのこと。幼稚園からの幼なじみ……ってかまぁ同級生のほとんどがそうなんだがっ。である。

 髪はちょうど肩くらいまでで、先端がちょこっと前へくるんとなっている。小学生のときは、もうちょっと長かった気がする。

 身長は男子である俺より少し低い。女子の中では……う~ん、普通くらいなんだろうか。

 休みの日に遊んだことは、まだ小学生のときに二・三度くらいしかないと思うが、学校ではよくしゃべる方。俺からすれば、女子の中では俺としゃべってるランキングTOP3トップスリーには、間違いなく入っているだろう。

 中学校も二年がもうすぐ終わろうかというところだが、最近はセーラー服と体操服以外の姿は、全然見る機会がない。宿泊学習とかくらいか?

「ん? なに?」

 片づけ終えた凛花が、俺を見ながらしゃべりかけてきた。やはり凛花も第六感を持っているのだろうか! 俺がちょっと見ただけで、視線に気づきこちらを向いてくるとは!

「……よっ?」

「……やあっ?」

 なぜか疑問符を付けながら、右手を上げてよっをしたら、凛花も俺ほどは手をぴしっとはしなかったが、やあをしてきた。

 そのまま、たくさんの学生たちがランチルームを出ていく流れに、一緒に乗った。

「なあ凛花」

「なに?」

 周りに学生たちがいるからか、なんか近い気がする。

「俺。第六感に目覚めたんだ」

「え?」

 すっごく真顔な凛花。

「聞いてくれるか? 俺のロカってる話を」

「ろか……? えっ?」

 ということで俺は、中庭~……はちょっと寒そうなので、普通に教室へと向かうことにした。


 給食の時間が終わると、そのまま休み時間となる。今、教室の中は、俺たちを含めても十人もいない。

 ここんとこけーどろ警察と泥棒流行はやってるからなぁ……。でもなんであれ、『いろはにほへとちり盗人』と『るをわかよ探偵』、なのだ?

「ふぅ~ん、そっかぁ。つまり雪俊は、なにかを悩んでいる、っていうことなのかな?」

 教室まで向かう途中と、俺の席に来てからもロカり話をしたら、凛花はそういう結論にいたったようだ。ちなみにミニテストの回答をお互い担当している=凛花とは隣の席である。

 右隣の席が凛花の席で、凛花はイスの向きこそ通常である前だが、身体は全部こっちに向け、脚をそろえている。

「悩んでいる? これは第六感とは違うというのかっ!?」

 父さんからもらった国語辞典にも載っていたぞ!?

「だって、夜ももやもや、外でももやもやって、悩んでいるっていうことなんじゃないの?」

「そ、そんな……」

 未知なる力が開放されたがあまりに強大で制御が利かないとか、そういう能力系ではなかったのか!?

「なにか思い当たることは、ないの?」

「よくわからないんだが、秋くらいからこんな感じだと思う。でもそれは気づいたのがその辺りってだけで、ロカってたのは、もっと前からかもしれないな」

 たぶん。

「秋かぁ。なにか思い出すことはない? なにか悩むようなことでもあった?」

 なんだか、いつになく真剣に聴いてくれている気がする凛花。いつもはもっと明るい。

「いや、悩むようなことは、別に……?」

 凛花にそう言われたばかりで、まだよくわかっていないのかもしれないが。

「なんなんだろうー。今も続いているのなら、早く解決させないと。もう何ヶ月も悩みっぱなしでしょ? あたしも手伝ってあげる!」

 おおっとっ、両手をぐーにして気合が入っている凛花。ってこれなんか、凛花を巻き込んでいる感じになっていないか?

「手伝うって、わざわざこんなことのために?」

 というかこれ、ほんとに悩んでるってことなんだろうか?

「こんなことってなにさー。雪俊が悩んでいるんだよ? それも何ヶ月も。このままほっぽっとくわけないじゃんっ」

(持つべきものは友!!)

 なんか凛花が輝いて見える。

「そこまで言ってくれるんなら……じゃあ、頼むっ」

「任せてっ!」

 凛花の両手が上下に揺られた。


 それからは、残りの休み時間・今の席の配置のおかげで同じ班だった掃除の時間・五時間目終わった後の休み時間と、凛花の丁寧ていねいな導き方に答えていった。

 さらに部活終わった後でも一緒に帰りながら聞く、っていうことになって、俺たちはげた箱で待ち合わせをして、一緒に帰ることになった。


 一緒に帰り始めて、団地の中を歩いているときも、俺のロカってる話は続いてきたが、なぜか凛花の表情が少し険しくなったのがわかった。

「……ね、ねぇ雪俊」

「なんだ?」

 今日は国語があったから、ちょっとセカバンセカンドバッグ重いな。まさか凛花も重たくてそんな険しい表情を?

「あの~……さ? あたしの思い違いだったら、あれだけど……」

 あれ? なんだろうか。

「遠慮なく言ってくれっ」

 ここまでロカりトークをしたんだ! もう凛花はロカ友第六感友達よ!

「雪俊……ひょっとして。あたしのことー…………好き?」

「す、きぃーっ?!」

 なぜいきなりそんなことになったのだ!?

「だって……あたしと一緒にいると楽しくて、家に帰ってもまたあたしと会いたいって、思ってくれているんでしょ?」

「……そう、なるのか?」

 今日、これまでのロカり話を凛花としてきて、ロカり始めた細かい時期がわかってきた。

・秋ごろ

→体育祭や文化祭とかがあった

→特に体育祭は楽しかった

→四十人四十一脚(二人三脚のクラス全員版)

→自由練習のとき、本番では隣でもない凛花と二人三脚から練習。なぜか二人三脚でクラスのいろんなやつらと競走することになった

→俺たちの組が一位。凛花と喜びを分かち合う

→その時に肩組んだこととか、ゴムバンド結ぶときとか、凛花の気合入った顔とかをよく覚えている

→本番も四十人四十一脚の種目は、俺らのクラスが優勝

→あぁ楽しかったなぁ体育祭

→あぁ凛花と一緒にいると楽しいなぁしみじみ

 しかしこれは確かにこういう流れではあったのだが、楽しかったなぁしみじみっていうだけで、そんな……すきぃとか……ねぇ?

「もう~、自分のことでしょー?」

 今度はあきれた顔をされてしまった。

「凛花と一緒にいることは楽しいし、もっと、いやずっと一緒に楽しいことをしていきたいとさえ思う。毎日夜でも外でも凛花のことを考えているのも、間違いではないだろう。しかし……これが第六感なのか?」

 む? 凛花がなんか変な顔をしている。お口が真一文字。

「……そんなことを雪俊から聴かされたら……あ、あたしがっ、雪俊のこと、もっと好きになっちゃうじゃん……」

 両手で自分の顔をあおいでいる。今は三月だぞ?

(なんて思っている場合ではなく……凛花が、俺のこと、を……す、すきぃ?!)

「り、凛花は、俺のことが…………なのか?」

 二文字は省略されてしまいました。

「……楽しいなって、思っていたのは、あたしも、そう、だったから……りょ、両想いだったら……うれしい、し……?」

 凛花の視線はあっちこっち飛んでいる。りょ、りょうおもい…………?

「そ、そうか……凛花は、すでにその第六感? に気づいていたのか」

「なんかちょっと違う気がするけど……じゃあ…………んっ」

「ん?」

 凛花が左手を出してきた。

 とりあえずぺちんしとこ。ぺちん。あ、もっかい左手出された。

「んもぅ」

 今度はそのままおお俺のみみみ右手をつかみ、てか握りっ

「……どう? やっぱりあたしのこと、好きなの?」

 これも第六感なのだろうか? なんだかものすっごく、ずっと握っていたいぞこの手!

「……たぶん?」

 露骨なため息をつく凛花。

「じゃああたしがつなぎたいから、つなぐけど、いいよね?」

 なんだ、凛花も同じことを思っていたのか。

「俺も凛花とは、ずっと手を握っていたいと思っていた。凛花の家まで、ずっとつないでいてくれ」

 確かに凛花と手をつなぐと、これまでのもやもやがもっとでっかくなってきているのがわかった。やはりこの気持ちは、凛花が大きく関係していることがわかった!

 凛花は空いている右手で、また自分の顔をあおいでいた。あきれているのか笑っているのか、よくわからない表情で。

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