第52話 闇の眷属ダーカー

「!?」

「立花!」


 月人は地面を強く蹴り、一瞬で美咲のもとへ跳躍するがそれよりも先に一発の弾丸がその影に命中する。


 陰は弾丸に貫かれ、虚空に雲散霧消した。


 四人が同時に弾丸が放たれた方角に視線を向ける。


 するとその方向からはなおも弾丸が放たれ続ける。


 無論、月人達に向かってではない、さきほどの影を始めに次々と茂みから現れる黒い人型の影の群れに向かってだ。


 影の群れが全て消えると最後に黒い獣人のような化物が現れるが弾丸を放った人物は獣をすばやく二本の小太刀に持ちかえ跳躍し、着地と同時に黒い化物を切り裂いた。


 生物とは思えないような声質の雄叫びとともに化物は虚空に掻き消える。


 赤と黒を基調とした服、中背で細身の肉体にサラサラの黒髪を持った麗人、弾丸を放った人物はその美しい顔を月人達に向ける、すると真二が指を指し目を大きく見開いた。


「あっ! あなたはあの時の!?」

「また会ったな、少年」

「なんだ浅野、お前洋介さんのこと知ってるのか?」


 月人の問いに真二は息を荒立て応える。


「前の事件で僕に結衣の居場所を教えてくれた人だよ、それより夜王くん、この人知ってるの!?」

「ああ、この人は世界最速のソルジャーって言われている、トップソルジャーの美叉(みまた)洋介(ようすけ)

さんだよ」


 トップソルジャー、ソルジャーの中でも最強ランクの者が授かる称号でその戦闘力は武装した兵士一〇〇万人に値すると言われる。


「夜王月人、君も任務か?」

「ええ、さっきこの森で大量に闇の眷族(ダーカー)の反応が出たって聞いて、洋介さんは今までどこに行ってたんですか?」

「人狼(ウェアウルフ)の国と吸血鬼(ヴァンパイア)の国だ、それで、その三人は?」


 見た目よりも強く、力のこもった声に美咲達は少々身構えながら自己紹介を始めた。


「立花(たちばな)美咲(みさき)です」

「浅野(あさの)真二(しんじ)です」

「差(さ)江島(えじま)結衣(ゆい)です」

「差江島? ああ、光一の娘か、二人はうまくやっているのか?」

「ええ、子供の私の前でも構わず……見ているこっちが恥ずかしいです」


 やや顔を赤らめながら言う結衣に洋介は優しくほほ笑みかけ、静かに言った。


「そうか、やはり光一は間違ってなかったか、じゃあ四人とも、木の陰に隠れててくれ……」


 月人意外の三人が疑問の言葉を発する前に月人は三人を押し倒す。

それと同時にそこら中から人のような形をした黒いモノが飛び出し、中にはついさっき倒したばかりの黒い獣人と同じ姿のモノも混ざっている。


「雑魚ばかりか……」


 洋介はつまらなさそうに息を吐くと小太刀を掴み黒い怪物達に斬りかかる、月人達四人は木の近くで洋介の戦い振りを見守るだけだった。


「夜王くんは戦わないの?」

「あのなあ立花……」


 美咲の問いに月人は一度美咲に視線を向けるがすぐに視線を洋介に戻し言う。


「洋介さんが戦ってるのに俺が入る隙あると思うか?」

「……確かに」


 最速のソルジャーにふさわしく、洋介の戦いは神速そのもの、だがただ動きが速いだけではない、速く、そして流れるように一切の無駄が無い、彼は速いだけでなく、とてつもなく巧(うま)いのだ。


 まるで先が見えてるように、まるで何度も練習したかのように、いや、ドラマや映画のように打ち合わせをしていても彼ほど綺麗な動きは無理だろう。


 この戦場全てを把握し全てを計算し尽くしたような動きにただ月人達は見惚れ続けるしかなかった。


「あれだけの闇の眷族(ダーカー)の群れを……やっぱスゲーーな」


 月人の言葉に真二が疑問を投げかける。


「あれっ? そういえばダーカーってあの黒い奴らの総称だよね、ダーカーとモンスターって違うの?」


「ああ、その辺説明してなかったな、化物(モンスター)は生き物だけど闇の眷族(ダーカー)は悪霊の強力バージョン、つまり霊体だ。もう少し説明すると一定以上の数の人間の魂と邪気が混ざり合って出来た霊的な怪物だ。っで、一番弱いのが魂一〇〇個から作られる闇の眷族(ダーカー)、最下級闇(ウィスプ)だ」


 月人が指を指した先、一番最初に見たモノで全身が黒く、人型を取っている。


「っで、最下級闇(ウィスプ)一〇体が融合して生まれるのが下級闇(シャドウ)」


 次に月人が示したのは黒い獣人だった。体は最下級闇(ウィスプ)よりも一回り大きく、頭部は狼のような形をしている。


「そいで下級闇(シャドウ)一〇体が融合して生まれるのが……」


 異常な速度でその数を減らしていく闇の眷族(ダーカー)、だが次の瞬間、洋介の周りが曇りになったように暗くなる。


 上から降ってくるそれはクモの頭部から人間の上半身が生えたような形をした黒い塊、洋介はすばやく小太刀を銃に持ち返るとそれをなんのためらいもなく撃ち抜き、黒い怪物は虚空に消えた。


「……中級闇(ブロブ)、並みのソルジャーなら数人がかりなのに、さすが洋介さんだ、一撃で仕留めやがった。あとこの上には上級闇(ウーズ)、最上級闇(ファントム)、半混沌(デミカオス)、混沌(カオス)って続いて混沌(カオス)は一億人分の魂が固まって出来る。まあ、そんなの滅多にいないけどな、しっかし……」


 月人は未だにリズムを乱さず戦い続ける洋介の姿に感嘆の声を漏らした。


「ホントに強すぎだよな……災厄種の俺でも洋介さんと戦ったら無傷じゃすまねえと思うぞ」


 月人がそういい終えた瞬間、突然美咲の後ろから一体の下級闇(シャドウ)が現れ彼女に襲い掛かった。


「!?」


 美咲の防御は間に合わない、下級闇(シャドウ)の鋭い爪が美咲に触れる直前に月人のハイキックと洋介の放った弾丸が下級闇(ウィスプ)を貫き美咲は間一髪のところで助かり、それと同時に闇の眷族(ダーカー)の殲滅が終了した。


 今のできごとに唖然とする美咲の頭に手を置き月人は口を開いた。


「危ないですよ洋介さん、俺か弾丸が間に合わなかったら美咲ケガしてますよ……」


 だが洋介は月人の文句に慌てず涼やかな声で。


「一ミリでも触れてさえいなければダメージはない、効率を考えたらあの闇の眷族(ダーカー)を最後に倒すのが一番良かっただけだ、問題はないだろう?」


「そういうの、余裕ないとも言いますよ……」


「そうとも言う、でもあの距離でよく間に合ったな、さすが最強混合種……」


「洋介さんも今の戦いぶり、さすが最速のトップソルジャーですね」


 二人は互いに一歩近づくと互いの拳を合わせた。


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