第41話 別れなさい

 次の日の放課後、和人は帰宅すると着替え、公園に向かう、できれば誰にも聞かれない自室で話したいところだが今夜は両親が家にいるうえに人狼(ウェアウルフ)の聴力なら筆談でもしない限り会話が丸聞こえになるため、しかたなく公園にした。


 当然、相談内容はどうやって自分達の交際を親に認めさせるかだ、和人は二人でそれぞれの両親に頼めばきっと許してくれる、そう思って公園に向かったが、ふと目の前の曲がり角から見覚えのある女性が姿を現す。


「……か、刈羽(かれは)さん?」


 腰まで伸びたロングヘアーに冷たい目を持った麗人、和人の目の前に現れた人物は美月の母親、夜主刈羽(よるぬしかれは)だった。


「久しぶりね、和人君、ウチの娘との関係は昨日美月から聞いたわ、付き合ってるって……」

「はい、あの、刈羽さんは俺達の交際……」

「ダメね」


 一瞬だった、いや、ここまでは予想通り、今は否定されてもあとで美月と二人で頼めばと和人が考えるが。


「あなたの様子から察するに、あなたも昨日親にウチの美月と付き合っている事を言って災厄種のことを聞き、そのことについて美月と相談するためにこれから待ち合わせ場所、おそらく公園に行ってそのあと二人で私に頼み込んで自分達の交際を認めてもらう、といったところかしら?」

「!?」


 和人は絶句した。昔から異常なまでに頭の回転が早く、常に全てを見透かされているような気がしていたが刈羽の力を改めて認識し、和人の体は硬直してしまい、否定することも出来ない。


「図星みたいね、あなた、災厄種の話を聞いても考えを曲げないなんて、ずいぶんエゴイストなのね」

「・・・・・なっ!?」


 刈羽の言葉に和人が反論しようとするとそれを遮るように刈羽が言った。


「だってそうでしょう? たとえ美月を破滅の元凶にしてでも一緒にいたいなんてあなたのエゴなんだから……」

「……っ……だから生まれる子供が世界を破滅させるなんてそんなの生まれてみなきゃわからな……」

「みんなそう言ったわ……」


 和人の表情が硬直する。


「今までの歴史上、災厄種が生まれる組み合わせのカップルは一人残らず生まれてみなきゃわからないとかちゃんと教育するとかその時は自分達が止めるとか言って、結局どの子も世界に戦争を仕掛けているのよ、自分達が最初の成功例にしようと考えているなら思い上がりもいいところだわ、知らないようだから教えとくわ、災厄種が生まれて憎まれるのは父よりも母、つまりみんなの憎しみの矛先は美月に行くわ、父親のほうにも責任はあるのにね、大衆は破滅を産み落とした母親を破滅の元凶として罵るの……」

「……!?」


 和人は必死に反論の言葉を探すが見つからない、そこへ刈羽がおいうちをかけた。


「和人君……あなたは美月に滅びを産ませたいの?」

「……」


 もう何も言えない、言うことが出来ない、刈羽も何も言わずその場を去り、あとに残された和人はただ絶望をたずさえて重い足を進めるしかなかった。


 公園につくと空を厚い雲が覆っているためかこの五月とは思えないほど暗く、もしかしたら一雨くるかもしれないと人々に思わせる天気だ。


「和人君」


 公園で和人を待っていた美月は和人の姿を見つけると彼の名を呼び走ってくる。和人はその姿を暗い顔で見つめた。


「和人君、和人君も昨日、親に私達のこと話して災厄種のこと聞いたんでしょ? じゃあやっぱり話って災厄種についてだよね、でも大丈夫、私はそんなの全然気にしてないし子供なんて教育しだいでどうにでも……」


「美月!」


 まるで和人に何も話させないようにまくしたてる美月だったが和人の声に驚き言葉が途切れる。


「……美月……」

「……和人君?」


 美月は心の中で「言わないで」と叫ぶ、和人の表情を見れば和人が何を言おうとしているのかはわかる、言って欲しくない、それだけは聞きたくない、なのに。


「別れよう……」

「!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る