第40話 お父さん反対ですよ!

「付き合ってるの……和人君と……」


 娘の告白に美月の母、夜主刈羽(よるぬしかれは)は冷たい視線で応える。


「……悪いけどね美月、明日すぐに和人君と別れなさい」

「……!?」


 母の言葉で美月の顔から明るさが消える、父に話せばきっと反対する、だから女同士の母に言えばきっと分かってくれる、そう期待して話したのにその期待は一瞬で砕かれたのだ。


「なんで!? 和人君が人狼(ウェアウルフ)だから!?」

「そうよ」


 母の冷たく鋭い声が耳をつく。美月は涙を流しながら母に訴える。


「なんで!? わからないよ! 確かに種族が違うと苦労も多いかもしれないけどそんなのお互いが好きなら……」


 そこで美月が奏蓮の言葉を思い出し震える声で母に問う。


「もしかして、吸血鬼(ヴァンパイア)と人狼(ウェアウルフ)だから? あたし達が付き合うと世界が滅びるって本当なの!?」


 涙を流しながら自分にすがりつくように追及してくる娘に刈羽は「それをどこで聞いた」という問いを飲み込み応える。

「本当よ、このさいだから教えてあげるわ、災厄種についてね……」

「……災厄?」



   ◆



「いいか和人、人間とモンスターの間に生まれる子の多くは見た目が人間に近いが戦闘力がモンスター並みというパターンが多い、だが亜人種同士だとそうはいかない、多くは親のどちらか一方の形質を多く受け継ぐが時々、両親の形質を同じ程度に受け継ぐ子供が生まれる、そうなると二種類以上の亜人種の特性を持つ子供が生まれる、それでもただ技持ちというだけで特に問題視する必要はない、だが、中には最強混合種と呼ばれる組み合わせがある」


「最強混合種?」


 息子の疑問に牙人(きばと)は応える。


「ああ、人狼と吸血鬼意外にも鬼や龍人、悪魔、天狗なんかで作られる組み合わせから生まれる子は常軌を逸した霊力を持つ。そして大人になれば確実に魔神クラスの戦闘力を得るんだ。今までの歴史上、この最強混合種は一人残らず自分が世界の王になるために人間達を滅ぼそうとしている、だから最強混合種は別名、災厄種とも呼ばれる。この人間界に、魔神クラスの力を持った存在は危険すぎるんだ。そういった子供が生まれるたびにそいつを止めるために今まで何万人という兵士(ソルジャー)や殺し屋(キラー)、狩人(ハンター)に用心棒(バウンサー)に研究者(アルケミスト)達化け物関係者(ジェネラル)が命を落としている……当然、両親はその元凶を作った者として周りから白い目で見られる。お前らのせいで世界は滅びかけたってな、俺は、お前にそんな思いをさせたくはない、だから……」


「……っ……」


 和人は父の言葉を最後まで聞かず自室へ駆け込む、うしろからは父の呼び止める声がするが和人は振り切り走った。


「 ハァ ハァ ハァ くそっ、なんだよ親父のやろう! 俺と美月の子供が世界を滅ぼす!? そんなの生まれてみなきゃわからねえだろ!? なんでそんな理由で好きなやつと一緒にいちゃいけねえんだよ!」


 和人は何度も壁やベッドを殴り呼吸を整えると携帯を掴み取り美月に電話をかける。



   ◆



 美月は泣きながらベッドの上で一人悲しみにくれていた。


 いつも心のどこかで夢見ていた。


 いつか好きな人(かずと)と結婚して好きな人(かずと)の子供を産んで幸せな家庭を築く、なのに自分と和人の子供は世界を滅ぼす災厄種、和人はこの事を知っているのだろうか、知らなかったらどう伝えればいいのか、当人ではなく生まれてくる子供に問題がある、そんなの高校生の二人には重すぎる問題だ。


 そう考えた時、美月の携帯が振動する。

 美月は和人からの電話に気付き携帯を取る。


「……あっ、和人君、どうしたの?」

「ああ美月、悪いけど、明日学校が終わって家に帰ったら公園にきてくれるか? 話したいことがあるんだ」

「……そ、そんなの明日学校で言えばいいじゃない、なんでわざわざ電話を?」

「ああそうか、悪いなこんな時間に、でもどうしても今言いたかったんだ」


 和人からの相談、美月は一時間にも感じられる長い沈黙のあとに。


「うん、あたしも、和人君に話したいことがあるの」


 と言って電話を切る。

 美月は携帯を閉じるとそれを両手でぎゅっと包み込み胸に押し当て涙を流す。


「和人君……」

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