第22話 覚醒!


「やめろ……美月に、手をだすな……」


 銀の弾丸を打ち込まれた腹を押さえながら和人は必死に立ち上がり、そのまま奏蓮につかみかかろうとするが。


「ウザイよ」


 奏蓮は左手に握られたオートマチック式の銃を乱発する。計九発の弾丸が和人の腹と胸に撃ちこまれ、和人は再び動かなくなる。


「へえ、さすがは最強種、銀の弾丸でも再生早いんだな」


 奏蓮が眺める和人の肉体は銀の弾丸を体の外に押し出すと徐々に再生を始める、いつもならすぐに傷が塞がるがさすがは銀の武器といったところか、完全な再生には数分を要するだろう。


「そうだ、一つ面白い話をしてやろう、さっき、貴様らを殺すには頭か心臓を潰す、もしくは首を切り落とすと言ったが、もっと分かりやすいのがある、それは……」

奏蓮の顔にこれでもかというぐらいの邪気が浮かぶ。


「霊力がなくなるまで殺し続けれいいんだよ!」


 奏蓮は銃のマガジンを交換すると迷わず全ての弾を和人に撃ち込み、それが終わると剣で和人の体を何度も何度も突き刺す。


「~~がぁっっ~~……!」


 和人の体は超再生力を持っているが傷が再生するのと痛みを感じないのは別、和人はあまりの痛みに意識が飛びそうになる。


 銀の弾丸を二〇発も受け、全身に銀の剣を突き刺し続けられている、一度刺さるごとに痛みが倍化していくように感じる。

 

 体が言うことを聞かない、視界はぼやけ、鼻は自分の血の匂いで麻痺する。


 耳は機能を失い何も聞こえない、触覚など感じれる許容量を遥かに超えた痛みで神経が焼ききれそうだ。


「お願いもうやめてっ!」


 美月が奏蓮の足にしがみつき懇願する。誰よりも好きな人の体が目の前で八つ裂きにされ血に染まっていく、美月の心は和人の肉体のようにズタズタに裂けそうになる。


 あまりにも心が痛すぎる。和人の体に剣が刺さる度に、和人の気配が弱まる度に、自分は無傷なのにそれだけで死んでしまいそうなほど辛い。なのに。


「バケモノが恋人ゴッコか?」


 奏蓮の剣が美月に向かって振り下ろされた刹那(せつな)、和人が二人の間に割って入り、かわりに奏蓮の剣撃を受けた和人の左腕は肩からドサリと斬り落とされた。


「……美月……」

「……和人君……」


 和人に意識なんてもうない、今のはただの反射のようなものだ、美月はただの物になりかけている和人を抱きしめ涙を流す。だが奏蓮はそれすらも許さない。


 奏蓮は小さく舌打ちをすると力で無理矢理美月から和人を引き離す。美月は和人を離すまいと必死に抱き寄せようとするが奏蓮の腕力は美月よりも遥かに上だ。


 泣き叫ぶ美月の目の前で和人を蹴り飛ばし、和人は遠くへと投げ出される。

その衝撃で右足がちぎれて和人は美月に逃げるよう言うが口が動かず美月の耳には届かなかった。


 美月は泣き叫びながら和人にすがりつくがそれでも奏蓮は容赦ない。


「ちょうどいい、二人仲良く葬ってやろう」


 奏蓮は剣に己の全霊力を込めて必殺の一撃を放たとうとする。


「よくも……よくも和人君を~~!」


 奏蓮に対して美月は戦闘形態を取ろうとする。鋭い牙とコウモリのような羽が生え、黒い瞳は真紅へと変わる。


 だが美月が奏蓮に襲い掛かろうとすると和人が呟く「やめろ」と、その言葉に美月は我に返り和人を見る。


「美月、早く逃げろ……」

「そんな、逃げるなら和人君も……」


 そこまで言って和人は右手をかざし美月の言葉を制する。


「悪いな、もう、霊力なんてほとんど無くてよ、俺は助からねえ……」


 その言葉に美月の頭がグラリと揺れた。


 そんなのは嫌だ。せっかく付き合えたのに、せっかく好きだって言えたのに、もう別れなければならないなんて耐えられるわけがない、美月は顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らしながら言う。


「やめて! お願いだから、そんなこと言わないで! 和人君は死なないよ、あたし、まだ和人君と一緒にやりたいことたくさんあるんだよ……一緒にお花見したり、海に行って泳いだり、秋になったらお弁当もって山に登って、冬になったら一緒にスキーだって行きたいし……一緒に、高校生活送って、修学旅行に行って、大学に行って、卒業したら……したら……・ずっと一緒にいたいよ……」


 その時、和人の手が美月の頭を優しく撫でる。


「……美月、俺もだよ」

「和人君……」


 美月は顔をほころばせると和人の体を強く抱きしめる。


「大好き」


 美月は和人の首元に噛み付いた。


「!?」


 それを見た途端、奏蓮の表情が変わる。さっきまでの落ち着いた物ではなく、何か恐ろしいものを見るような、恐怖の混じった驚愕の表情。


 次の瞬間、和人の体がビクンと跳ね上がり体が変化する。全ての傷が一瞬で再生し、失った左腕と右足が生える。右の瞳が青から赤に、背中にはコウモリのような翼が、牙は鋭さを増し、吸血の力を得る。


「これは……?」

「和人君、あたしの血を吸って、吸血鬼(ヴァンパイア)はそれで霊力を回復できるから、早く!」

「……っ……」


 吸血鬼(ヴァンパイア)化した和人は美月の首に噛み付き血を吸い取る。

すると美月が噛み付いた瞬間から爆発的に上がり続けていた和人の霊力がさらに上昇した。


 あまりの霊力に辺りの草木がざわめく、霊的物質ではない物にまで影響を及ぼす力、和人はそのすべてを羽と爪に集め、同時に振る。その瞬間、爪からは青い光りの刃が、羽からは赤い光りの刃がそれぞれ放たれ奏蓮に襲い掛かる。


「ちっ、このバケモノ共が!」


 奏蓮が剣を振り、放たれた黒い光りの刃は和人の刃に一瞬で掻き消され、刃はそのまま奏蓮に向かって突き進み、奏蓮はそれを剣で受け止める。


「くそっ! なんて霊力だ。後天性吸血人狼(ヴァンパイアウルフ)でこれなのか!? まるで魔神だ……」


 奏蓮の剣が折れる。和人の刃が奏蓮に当たると刃は炸裂し、一瞬、奏蓮の姿が見えなくなる。


 光りと爆煙が無くなると奏蓮の姿はない。


「……あの人は?」

「逃げられたよ・・・・・」


 それだけ言うと和人は戦闘形態を解いて人間(ほんらい)の姿に戻る。


「そういえば美月、俺の体だけど……」

「あっ、それは大丈夫、前に行ったけどモンスターに噛み付いてもすぐに戻るから」

「そうか、じゃああとは協会に連絡してこの木とみんなをなんとかしてもらうか」


 和人は服のポケットから携帯電話を取り出すと父に電話し、協会の人間を呼んで欲しいと頼み、二人はその場を離れた。


 二日後、被害者達は全員目を覚まし、無事が確認されるが誰も何も覚えていないため、結局事件は謎の集団誘拐事件として迷宮入りした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る