第21話 犯人

 二人が何故だと頭を悩ませているとそこへ、冷たい、男の声がする。


「それは俺が改良したものでね、特別効果範囲が広いんだよ」


 二人の視線が一箇所に集まり、いつのまにいたんだと二人の目が大きく見開かれる。


 視線の先にいたのは黒衣に身を包んだ自分達と同じ位の年の少年で美麗な顔からは冷たい視線が注がれる。


 感覚の鋭い人狼(ウェアウルフ)と吸血鬼(ヴァンパイア)に気付かれずこの空間に侵入する。その事実だけで少年がただの人間でないことがわかるが何よりも彼の放つ空気事態があまりに異質すぎる、悪魔や怨霊の類ではないが少なくとも人間としては異常だ。


 二人の額に汗がにじみ、和人が緊張した声で聞く。


「この地区担当のソルジャー……じゃあねえよな……」

「俺は……」


 そこまで言って少年の存在が消え、次に現れたのは和人の目の前だった。そしてその存在を感じる前に和人は腹部に強い衝撃を受けて後方へ吹き飛ばされる。


「和人君!」


 美月が和人に駆け寄ると少年は続けた。


「俺はキラーの黒塚(くろつか)奏蓮(そうれん)、この失踪事件をモンスターのせいにして協会連中にモンスターが人間の敵であると認識させようと思ったんだがな……」


 奏蓮は和人を見ると「なるほど」とおいて言う。


「人狼の嗅覚なら探せたのも納得できる、人間のソルジャー達の目は誤魔化せたんだが……邪魔だな」


 奏蓮が意識を集中すると手の中に鞘に収められた一本の剣が握られる。彼はそれを片手で抜くと二人にゆっくりと近づく。


「お前ら人狼と吸血鬼は首を切り落とすか心臓か頭のどちらかを潰さない限りすぐに再生する。でも……この銀の剣は別だ」


 奏蓮の手に握られた剣は美しい銀色をしており、奏蓮の殺意に反応するかのように光っている。


 人狼をも殺す銀の弾丸、その力の正体は銀にある、銀は霊力を込めるのに大変適した物質で銀そのものも霊力や魔力に強い影響力を及ぼす。


 そして銀はモンスターやソルジャーなどの高い霊力を持つ存在の細胞の一つ一つを覆い守っている霊力の壁、霊壁を破壊し細胞の再生を遅らせる、これにより高霊力を持つ者特有の強靭な肉体に致命的なダメージを与え、さらに超再生を遅くすることが出来る。


「このやろう!」


 和人は立ち上がると今までのような中途半端ではなく完全に人狼(ウェアウルフ)の姿になり奏蓮に襲い掛かる。


 和人の口が奏蓮に噛みかかる、奏蓮は銀の剣を和人に噛ませそれを防ぐ。


「たいした霊力だ。さすがは亜人間界(デミヒューマンかい)最強種の一つ、人狼だ、だが……」


 和人の爪が奏蓮に襲い掛かる寸前、奏蓮の左手に握られた銃から銀の弾丸が和人に向けて至近距離で放たれた。和人は衝撃で後ろに倒れる。


「所詮はモンスター、練磨(れんま)された人間の戦士には勝てないな」


 冷たく、まるで親の仇でも相手にしているような憎しみのこもった声。


「なんで!? 和人君は何もしていない! 和人君はいなくなったみんなを助けようとここまで……!」


 奏連の剣が美月に向けられ、美月は一瞬、硬直するが恐怖ですぐに目から涙が溢れ歯をカチカチと鳴らす。


「関係ないね、俺たちキラーは行動や種類に関係なくこの地球上に存在する全てのモンスターを殲滅することを目的と……」


 奏蓮の言葉が止まる。彼の目が和人と美月を交互に見ると問う。


「お前ら……もしかして付き合っているのか?」

「えっ……そうだけど……」


 美月が不思議そうに応える、自分と和人が付き合っていると何か困ることでもあるのだろうかと考えると奏蓮は視線を地に落とし憎らしげに、だがとても小さな声で言う。


「協会はこの二人に気付いてないのか、いやそもそも知っても始末するかどうか、これだからソルジャーは甘いんだ、なら生まれる子は……くそっ、世界が滅びるぞ……」


 自分と和人が付き合うと世界が滅びる、言葉の意味がわからない、美月がどういうことか奏蓮に問いただそうとすると奏蓮がさきに口を開く。


「おしゃべりはここまでだ、貴様らが付き合っている以上、ますます殺さないといけなくなった……死ねよ、バケモノ」


 奏蓮が剣を構えると和人が彼の足首をつかむ。


「やめろ……美月に、手をだすな……」


 銀の弾丸を打ち込まれた腹を押さえながら和人は必死に立ち上がり、そのまま奏蓮につかみかかろうとするが。


「ウザイよ」


 奏蓮は左手に握られたオートマチック式の銃を乱発する。計九発の弾丸が和人の腹と胸に撃ちこまれ、和人は再び動かなくなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る