最終話 私たちの世界は全て本当

「どういうことよ、何が何だか分からない!!」

「五月蠅い。黙ってついてきなさいよ!」


のばらはやはりのばらであり、こういう態度はいまだにする。

だが、彼女はいつも何かしら考えて行動する人なので、ここはもうのばらにすべてを委ねるしかないとゆりかは思った。

そして、どこに行くかと思ったらひまわりの部屋。


ひまわりが、どうぞという間もなくのばらは部屋の扉を開けた。

そこには勿論ひまわりが座っていて、いいのか悪いのか一人だけだった。

「あれ?プリンセス様とプリンス様だ。何か私に言うことがあるの?まぁ、あることだらけだろうけど。」


「そうなの。私、貴女に言いたいことがあって来たの。」

そう言うとにこりとのばらは微笑んだ。三年間培ってきた演技力をいかんなく発揮する。

が、次の瞬間それは一変した。


「調子に乗るな、馬鹿が。汚い、気持ち悪い、私たちに寄るな。」

「の、のばら!?」

「はは・・・これが貴女たちの・・・本性なの?」

「悪い?」


のばらはあくまで高圧的だ。


「言いたいなら言えば?私は何も怒る気はないから。でも・・・。」

のばらはゆりかと頬を寄せ合うと、極上の笑顔でこう言い放った。


「ゆりかに何かしてみろ?殺してやる。」


「・・・・・・!?」

その時ののばらの恐ろしさと言ったらない。長年一緒にいるゆりかでも初めてののばらだ。

ひまわりもその恐ろしさを感じているらしく、一言も言い返せない。

のばらは彼女を一睨みすると、ゆりかの手を引っ張って部屋を出た。


「次は、最終仕上げをする。」

「のばら・・・!?最終仕上げって何!?」

「今、下校中だからいっぱい人がいると思うの。思いのたけをぶちまける。大体、なんでもっと早くしなかったのかしら。馬鹿みたい、笑っちゃう。」


戸惑うゆりかを引っ張り続けて、のばらは多くの生徒が集まる校舎へと続く道にやって来た。

もちろん二人が現れたものだから、皆一様に黄色い声をあげて寄ってくる。

しかし、のばらが彼女たちに放つ言葉は「ごきげんよう、みなさん。」ではなかった。


「寄るな、気持ち悪い。一切、私に触るな。調子に乗るな、馬鹿どもが!!」

「の、のばら・・・!?」

のばら節は止まらない。

「お前らに媚を売るのはもう散々。私はお前らのことが気持ち悪くて仕方がないし、一切触れてほしくない。私、汚いのが大嫌い!!」

唖然とするゆりかの裾をのばらは引っ張る。

「ほら、ゆりかも言ってやりなさいよ!!思う存分言いたいことを言ってやりなさいよ!!」

最初こそ迷ったが、ゆりかは深呼吸すると、ゆりか史上最大の声で一喝した。

「私を見るな!!私に話しかけるな!!私は貴女たちに一切見られたくないし、話したくない!!私、人と関わるのが大嫌い!!」


辺りが静まり返る。

何が起こったか分からなくて皆静まり返った。

静寂の中、生徒の中の誰かが震える声でこう言った。


「そ、それじゃあ、お二人が仲のいいのも・・・嘘なのですか?」


のばらはそれを聞くと、ふっと笑ってゆりかを抱きしめた。


「それは、本当。」


そして、事もあろうか大勢の生徒の前でゆりかにキスしたのだった。

「~~~~!?」

これにはゆりかも驚いて声も出ない。

なかなかに長いキスをし続けると、のばらは生徒たちを睨みつけて、のばら史上最大の声で一喝する。


「こっちを見るな!!馬鹿ども!!」

そして、またゆりかの裾を引っ張る。

「ゆりかも言いなさいよ!!」

ゆりかは、その言葉にハッとする。そして、少しだけ目を閉じると、カッと見開いてのばらと同じことを叫んだ。

「こっちを見るな!!ば、ば、馬鹿どもっ!!」


「行こ、ゆりか。」

「行こ、のばら。」


二人は手を繋ぐと、呆然とする生徒たちの前から去っていったのだった。


「あー、すっきりした!!気持ちよかった!!」

「のばら、気持ちいいの?」

「ん・・・嫌だ、そうなの?そうなのかも。」

「のばら!」


のばらはうーんと考え込む。


「なるほど、嘘をつかないってことって気持ちいのね。私、気づくの遅すぎじゃない?馬鹿みたい、笑っちゃう。」



二人の部屋。

ゆりかは、すっきりしたすっきりしたと満足気。のばらも満足げなのだが、まだ物足りない様子だった。

「どうしたの、のばら?」

「私、考えてたのよ。すっきりしたついでに、もう少し気持ちよくなってみようかなって。」

「・・・?」


すると、のばらはゆりかにそっとだが熱く口づけた。

「・・・っ。」

そして、ゆりかの首筋を舐める。

「の、のばら・・・!?」

「私、嘘をつかないって気持ちいってわかったし、馬鹿いばらの呪いも解いたことだし。もう少し、試してみようと思うの。」

「な、何を・・・?」

「こういうこと。」


のばらはゆりかの首筋に舌を這わせ続け胸のところまでくると、彼女の制服に手を伸ばす。

「上からじゃないわね。」

この期に及んで冷静なのばらは、今度はゆりかの服の中から手を入れて彼女に触る。

「んっ・・・。」

「あー、もうっ、面倒な女ね。自分で脱ぎなさいよ。」

「え!?」

「その服に埃がついていたら嫌じゃない、自分で脱いで!!」

何かよく分からないが、おそらくこれはこれでのばらは照れているのだろう。

ゆりかはそう思いたい。

「じゃあ、のばらも自分で脱いでよ。私だけなんてずるいじゃない。」

「・・・・・・。」

暫く考えたのち、のばらは不機嫌そうに脱ぎだした。

なんとも雰囲気のない・・・。

だが、ゆりかはそれでよかった。


「何よ・・・。」

のばらがすべて脱ぎ切った後、彼女の裸をじっとゆりかは見つめてしまった。綺麗だから。初めて見たのばらの本当の姿。こんなに綺麗だったなんて。

いや、初めてではない。ゆりかはあの時も見て彼女に心奪われた。

「何、私がまな板だっていうの!?少し私よりあるからって調子に乗らないで。」

のばらは怒りながらも、ゆりかには優しく触れてくれた。

胸にも優しく触ってくれるし、舐めてキスもしてくれる。

くすぐったいし、気持ちがいい。


「私だけが気持ちよくなってない?のばら、気持ちいいの?」

「私、ゆりかが気持ちいいなら、気持ちいい。」

とはいえ、なんだかのばらに申し訳ない。

ふと、ゆりかはのばらの言うところのストリップショーを思い出す。

「のばら、ちょっと股ひらいて。」

「はぁ!?」

ゆりかはそう言うと、のばらの太ももを舐めあげた。

「・・・っ!?ちょ、ちょっと、やめなさいよ!!」

「やだ。のばら、確かめてよ。一人でするのと私とするのどっちが気持ちいいか、確かめてよ。」

ゆりかは、のばらの秘部を舐めあげる。何度も。のばらが何度もキスしてくれたように、抱きしめてくれたように。何度も。

「・・・っ!ちょ・・・あっ・・・待って・・・んっ。」

この声は、どこかで聞いた。初めて、のばらを好きになった時の声だ。ずっと頭から離れなくなった声。

だけど、それよりもっと。ずっと。もっと。


「・・・よくも私に大誤算をさせてくれたわね。」

一通り抱き合うと、のばらは不機嫌そうに言った。

「でも、気持ちよかったでしょ?」

のばらは暫く黙り込んだあと、ゆりかの両頬をそっと両手で触る。


「私、本当のことを言うと。まだ時々、ゆりかを触るとき震える。多分気づいてないだろうけど。時々、口も濯ぎたくなる時もある。でも、それ以上にゆりかに触っていたいしキスしたい。だって、こんなに気持ちいいのだもの。どこまでが気持ちいいのか分からなかった。どこまでが嘘か、本当か。」

「のばら・・・。」

「でも少し分かった気がする。嘘とか考えているから駄目なのだわ。全部本当よ。それだけのこと。」

何が言いたいか分かるような、分からないような。

ゆりかがそんな顔をしていると、のばらは彼女に口づける。

「馬鹿みたい、笑っちゃう。どうして、たくさん嘘をついていたのかしら。」

「もう何でもいいよ。私、沢山傷ついてきたけど、沢山、のばらと気持よくなって。これからも嘘をつかなければいいだけ。それだけのこと。」


それから、これは退学かもしれないなと思っていた二人だったが、のばらの言うところの馬鹿みたい、笑っちゃうことに、彼女たちの関係は一層生徒たちを盛り上がらせていた。

刺激的。簡単に言うならそう言った感じだろう。


「馬鹿みたい・・・。」

「笑っちゃうよね。」

ゆりかはのばらがそう言い切る前にそう言ってやった。

のばらは怒るかと思いきや、微笑んだ。この微笑みは本当の微笑み。


ゆりかはのばらと手を繋ぐ。これにも嘘はない。


「貴女と私、本当だらけの世界。のばらと私、本当だらけの世界。」

「そうね。馬鹿みたいだけど・・・そうみたい。」


二人は笑い合った。

これから二人はずっと本当だらけの世界。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る