第13話 もう潮時なのかもしれない

ひまわりは席について、いつも通り授業が始まる。

だが、ゆりかは震えたままだ。ずっと小刻みに震えて青い顔をしている。

「ゆりか・・・?」


そして昼休み。ひまわりはゆりかに駆け寄ってきた。

「ゆりか!この学校にいたのね!あの後消えるようにどこかに行ったから心配していたの。」

「え・・・あ・・・。」

ゆりかの言葉が詰まってなかなか出てこない。

このままだと演技が続けられなくなる。

見かねたのばらは、ゆりかの手を取った。


「ゆりかさん、お庭に行きませんか?」

「え?えぇ・・・行きましょう、のばらさん。」


二人は手を繋ぐといつも通り教室から出ていく。

それを不思議そうに・・・そして怪訝そうにひまわりは見つめた。

「ねぇ。あの二人ってどういう関係なの?」

ひまわりは近くにいた少女に聞いく。すると少女はうっとりして答えた。

「お二人はプリンス様とプリンセス様なの。」

「何・・・それ?」


裏庭。

ゆりかとのばらはそこに隠れるようにやって来た。

「どうしたの?ゆりか?あの子がどうかしたの?」

のばらはゆりかの肩を撫でながら言う。だが、ゆりかの震えは止まらない。

「あの子・・・私のことを知っているの。本当の私を知っているの。」

「え・・・?」

「あの子、前言ってた子。私のこと可愛いって言って陰で悪口を言っていた子なの。私がそれからコミュニケーション能力が皆無になっているって知っているの。」


ゆりかは、泣き崩れるようにしてしゃがみ込んだ。

のばらもしゃがむと、ゆりかの頭を撫でる。昔ののばらなら考えられないことだけれども。

「大丈夫。ゆりか。私が何とかする。ゆりかは私に貸しがあるから。たくさんあるから。私、今度はゆりかを助ける。」

のばらはゆりかを立たせると彼女を抱きしめた。

何よりも優しく。

あんなにゆりかを汚いと言って避けていたのばらが、こんなにゆりかに優しく接してくれる。こんな状況なのに、ゆりかはそれが泣きそうなほど嬉しい。


「ゆりか、嘘のない二人なら、大丈夫。」


だが、事はなかなか上手くいかない。

放課後、いつも通りのばらは手を洗ってから帰ると言ってトイレに行ってしまった。

早くのばらに帰ってきて欲しい。こんなにも今は不安だ。

そんな折、ゆりかは背後に気配を感じた。


「のばら?」


そう言って振り返ってみるとそこには、会いたくない人物。ひまわりが立っていた。

「ひまわりちゃん・・・!?」

「やっと、お話しできたね!ゆりか!!」

「あ・・・あの、どうしたの?」

「私、みんなから聞いちゃった。」

「え?」

「ゆりか、みんなからプリンセス様って呼ばれてるんだね。ゆりか、昔から可愛かったもんね。でも、こんな性格だとは知らなかったな。」

「あ・・・その・・・。」


「あら、ゆりかさん。私に黙って二人でお話してるなんて、ずるいわ。妬けちゃう。」

「の、のばら・・・さん。」

そこには鉄壁の笑顔で微笑むのばらがいた。

「桃谷さん、こんにちは。ゆりかさんから聞いたわ。お友達なんですってね。きっと、私の知らないゆりかさんをたくさん知っているのね・・・羨ましい・・・。すごく・・・羨ましい。」


のばらは笑顔だが、これは怒っている。

昔からの付き合いだからわかる。ゆりかを毛嫌いしている時からそれはよく感じていたから。

しかし、ひまわりはそれを知ってなのか知らないからなのか食い下がらない。


「いいなぁ、ゆりか。こんなかっこいい人と親しいなんて。私の方が羨ましいなぁ。ゆりかの昔の話、いっぱいしちゃおうかな。ついでにゆりかのこと慕っているみんなにも折角だから話しちゃおうかな。」

「そ、それは・・・。」


ゆりかが言葉を詰まらせていると、のばらはゆりかを引き寄せて後ろから抱き付く。

「羨ましいけど、遠慮する。ゆりかさんと私のほうがきっと美しい想い出ばかりだから。たぶん、皆さんもそっちの想い出を聞く方が楽しいと思うの。」

「のばらさん・・・。」

のばらはゆりかの手を繋ぐと、ひまわりの前から去ろうとした。

が、その瞬間。ひまわりがゆりかの手を引っ張った。そして、その手がのばらにも触れる。

ゆりかは背後から急にという場面に弱いが、それはのばらも然り。


「触るな!!汚い!!」


のばらは思い切りひまわりの手を払いのけてしまった。

「触るな・・・?汚い・・・?みんなに優しいプリンス様が・・・?そんなこと。」

のばらの表情はいつもあまり崩れることはないのだが、こればかりは少し乱れる。


「変なの。陰気なプリンセス様に、触るのを嫌がるプリンス様。変なの。」


のばらはそれを無視するようにゆりかの手を引っ張る。

そして、何も言わずにひまわりの前から去っていった。


「のばら!のばら!!どうするのよ!?あの子はそういう子なのよ!?きっと私たちの本性が広がっちゃう!!」

二人の部屋で、ゆりかはのばらに詰め寄る。

「大誤算だわ。私まで失態を犯すなんて。」

「大誤算じゃないわよ!!どうするのよ!?」


すると、のばらはゆりかに飛びつくように彼女にキスをした。

そのまま押し倒して、ずっとキスをし続ける。

のばらはひとしきりゆりかを堪能すると、スッと立ち上がった。そしてゆりかを汚いと言い続けていた時ののばらの目に戻って、吐き捨てるように言うのだ。


「もう、潮時なのかもね。」

「のばら・・・?」

「もう、嘘は懲り懲りよ。全部話してやりましょうよ。」

「な、何を話すの・・・?」

「何って本当のことよ。」

そして、のばらはゆりかに手を差し出した。


「行きましょ?ゆりか。でもその前に、あの子ちょっと締め上げてくる。気持ち悪いから。」

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