人と人に非ざる者のすれ違いを描く悲しき恋物語

自分の腕前に嫌気がさした旅芸人のミオ。引き留める同僚の声を無視して、逃げ出した森の中で彼女は仙人の析易と出会う。芸人と仙人という全くの身分違いの二人であるが、胡琴を伴奏すれば音は見事に重なりあい、析易に連れ出された先で見る鮮やかな光景にミオはすっかり心を奪われる。世俗と離れ平穏な生活を送る二人だが、その生活はある出来事をきっかけに壊れ始め……。

中華風の世界が舞台なのだが、物語全体の雰囲気が非常に良い。森の中で偶然耳にした析易の演奏にミオが思わず伴奏するという出会いも良いし、誰といても劣等感を感じて孤立してしまうミオと山奥でひとり他人と交わらずに暮らす析易が互いの孤独を埋め合わせようとする様子を巧みな文章で見事に描写されている。だからこそ終わりが非常に切ないのだ。析易が抱え込むコンプレックスをミオは全く気にしなかったのに、そのことに析易が最後まで気がつけないというのが何とも悲しい。

シンプルで短い内容の中に、人間とそうでない者のすれ違いを描いた美しい短編だ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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