第12話

scene12 さくら餅


桜の精のおじいさんが憑いた桜の木の皮を持って(連れて?)お店へ戻ります。

憑いたとはいっても、どこから見てもただの木の皮にしか見えないんですけど。


おじいさんを送る前に。


お供えのさくら餅をナナさんと作ります。


さくら餅。

そのお餅も大きくは関東と関西の2つに分けられるんだとか。

関東のさくら餅は小麦粉由来で、関西のさくら餅は道明寺粉で作ったさくら餅なんですって。


「今日は道明寺粉のさくら餅を作るわね。

瑠璃ちゃんにはこっちの方がおなじみでしょ」


「ナナさん、道明寺粉ってもち米とは違うんですか?」


「もち米には違いないんだけどね。

もち米を一度蒸した後に乾燥させたものが道明寺粉なの。つぶつぶ感はあるでしょ。まぁ、毎回毎回もち米を蒸して、臼で突くなんてできないからね」


道明寺粉から作ったお餅を小豆を柔らかく煮た餡子で包みます。

もち米の粒々がほどよく残る道明寺粉に、甘さも控えめに小豆を炊いたあんこ。

そして桜の葉の塩漬け。


「はい、さくら餅の完成!

瑠璃ちゃん、お疲れさまー」


「あはは、、、私何もしてません」


私、ほぼ見てただけなんですけどね。


出来立てのさくら餅を神棚に備えます。


「さて。では送りましょうか」


神棚の前で先生が祝詞(のりと)を上げます。

実家の神社の祭事と同じような祝詞です。


しばらくして。


桜の木の皮の上におじいさんが。

神棚の前でにこやかに話されます。


「皆皆さま、ありがとうございました。

そしてお嬢さん、突然声をかけてすみませんでしたな。おかげで故郷へ帰ることができます。


おぉ、これはさくら餅ですな。

素晴らしい供物ですなぁ。

香りもすばらしいですじゃ。

しかもこの葉は私が居たお宮の桜ですな。

ここのお宮もむかしは信心深い村人が多くおったんですがなぁー。

今ではすっかり寂しくなりました。

残念なことです。


さて、これにて失礼致します。

力あるお方、玉藻さま、そして

あらためてお嬢さんにはお礼申し上げますぞ。

それでは皆皆さま、ご機嫌よう」


八雲先生が、いいます。


「良い旅路を」


八雲先生がサングラスを外します。

グレーの左眼から光を放つように

神棚の奥へと光が放てられます

奥の方へと長く続く階段が広がります。


桜の精のお年寄りが神棚の奥へと消えていきました。

段々と、光も消えていきます。


木の皮から花が咲き、その桜の花びら二輪、三輪と舞い散ります。


「散り際もみごとなおじいさんねー」


ナナさんが言いました。


「先生、おじいさんは何処へいくんですか」


「この神棚は霊力のある全国それぞれの神社まで続いていますからね。

あの桜の精も元いた生まれ故郷にまで、迷わずに帰って行けますよ」


神棚から桜の花びらがひらひらと舞い落ちます。

まるで喜び踊っているみたいです。

ほっとするような。

なんだか物悲しくもなりました。


「さあ、お下がりのさくら餅をいただくわよ。

明るくおじいさんを送ってあげなきゃ!」


「はい!」


熱いお番茶にさくら餅。

甘いあんこにあまじょっぱい桜の葉。

ほっこりとしたおいしさです。


玉ちゃんもおいしそうに頬張っています。


「桜の精が去った桜の木やまわりの木々は寂しくなるのかな」


そんな私の独り言に、八雲先生が言われました。


「愛でる人が少なくなれば、やはり

寂しくなるでしょうね」



帰途。


お宮の桜を見て帰ります。

散り果てというんでしょうか。

すっかりと花びらも散った桜の木々。

とくに桜の精が去った古木は、なんだか寂しく感じるのでした。


玉ちゃんが言います。


「瑠璃ちゃん、帰るでー。今日もチーズ・・」


「玉ちゃん、今さくら餅を食べたばっかりでしょ、今日はナシよ」


「えー、そんな殺生な〜」


「さぁ、帰るわよ」


玉ちゃんを胸元へ抱き寄せて帰ります。



さくら餅と桜の精。


来年になっても、ずーっとこの日のことは忘れない気がしました。

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