ニャータイプ。

友坂 悠

ニャータイプ。

 あたしはニャータイプだ。

 ほら、ニュータイプっていうのがあったでしょ?

 あれのあたし版。


 なんていうかな、五感じゃ感じられない第六感っていうのかな、そういうの?

 感が鋭い、とか、勘がいい、とか、そういうふうに言われて育った。


 そんなあたし。

 自分の中で、人の認知を拡大し猫のそれに近づいた存在として、自分のことを「ニャータイプ」って定義してる。


 具体的な例で話すと、

 会話の断片からその本質を見極め理解する能力、とか、

 複数の選択肢と断片的な情報から最善最短の手段を選択する能力、とか。


 仕事してても上司が電話で誰かと話してるのが聞こえるだけで、内容がほぼ正確に理解でき。

 時には気味悪がられたり。

 断片を投げておけばとりあえず仕事をこなし、上司が求めていた以上の内容に踏み込んで結果をだすこともできるので、便利に使われることも多々あって。

  

 今までの人生の中でも何度も挫折はあったけど概ね幸福だった。

 貧乏でも、よかった探しができる性格なのも功を奏していたのかもなんだけど。

  

 限定幾つとかでなかなか手に入らない欲しい猫のお弁当箱を間違いなくもらえる場所を見つけたり。

 計画の目処を建てる前に先に周りに話し自分を追い込んでから、その通りになるように実行したり、とかも。

 わりとそんな感じで生きてきた。



 きっとね。

 人類が全てニャータイプになれば世の中は良くなるんじゃなかろうか。

 そんなことも考えちゃう、けど。



「バカだね亜里沙。皆が皆そんなに便利にできたら苦労はしないって」

「だって。人が争うのは見たくないんだもん」

「それだって、あんたのエゴだよ? それでどうするの? ニャータイプになれない人類は滅べばいいっていうの?」

「そんな極端なこと言ってないのに」

「ふふ。あんたはね、確かに勘はいいかもしれないけど人の心の機微まではわかんないんだよ」

「え?」

「空気が読めないってこと。コミュニケーションが苦手でしょ?」

 ああ……。

「なんだっけ、人類が全て分かり合えるのがニュータイプ、だっけ? でもそれでも人の悪意まで許容できなかったんじゃない? 確かさ」

「で、も」

「ニャータイプは確かに便利だよ。お花畑みたいな人生が送れるだろうさ。でも、人生って、人って、それだけじゃないんだよ」

「そんな、それじゃぁ悲しすぎる」

「バカだね。そういう時は立ち止まってさ、『それが人生さ』って、そう言うのさ」




 画面の向こうでそう香澄かすみが言った。

 あたしが言葉に詰まってそのまま返事を返せないでいたせいか、会話はそこで止まってしまって。



 それが人生さ。

 かぁ。

 あたしにはまだまだそんなふうには達観ができない。

 画面の向こうの文字だけの彼女が本当はどんなことを考えているのかだってあたしにはわからない。


 でも。

 こうして。

 実際に人と触れ合う機会が減ったらますます人は五感に頼らなくても生きていけるようにならなくちゃいけないんじゃないかなって、そうは思うんだ。


 少しでも。

 ほんの少しでも、前に進めたらいいな。


 猫のように、世界の全てと柔らかく感じ合えるような。

 そんなふうになりたい。

 そう思ったのだ。






    FIN

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ニャータイプ。 友坂 悠 @tomoneko299

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