彼女の第六感(それ)を、恋と呼ぶ

胡蝶花流 道反

第1話

「ワタシと付き合って下さい」


 ・・・え?


「聞こえませんでしたか?ワタシと付き合って下さい」


 え”⁉⁉⁉⁉⁉


「お返事いただくまで何度でも言いますよ。ワタシと付き合って下さい」


 な、なんて女だ…

 三回も言いやがったぞ、や〇やだって二回なのに…


 等と、謎のツッコミが真っ先に現れる程に、僕は混乱している。

 先ず僕は、この女性に見覚えがない。全くの初対面の筈だ。

 そして、その初対面…或いは小学校の同級生とかそういった昔の知人かも…どちらにしても縁の薄い女性に告白される程、容姿に恵まれてはいない。

 故に今の状況を受け入れられず、固まっているのだ。

 この場合、どう動くのが正解なのか?


「なぜ答えて貰えないのですか…」


 だが、彼女の面持おももちは真剣そのものだ。

 良く見ると可愛い顔してるし、背も小っちゃくて萌え袖ニットにミニスカートがとても似合っていて、僕のタイプだ。

 だからこそ、何故?


「ワタシと付き合って下さい、鈴木さん!」

「誰だよ、鈴木さんって!!」

 僕の名前は伊藤なのだが・・・




「それでは、あなたが鈴木さんではない証拠を見せて下さい」

 いきなり失礼!?

 ってか、まずここ…近くにあった喫茶店に、何故二人で入る状況になってしまったのか。

 この見知らぬ女性、僕の名前が鈴木でない訳がないと勝手に思い込み、決めつけ、挙句の果てに力説まで始めたのである(いや、だから僕は伊藤だって)。さすがにポツポツとやじ馬的な人達が集まって来たので、場所を変えて話し合おうと提案した。

 すると今度は、現在居る喫茶店を指差し『それなら、あちらのお店にしましょう、コーヒーが美味しいの、きっと』とのたまわれ、今に至っている。

 だがここのコーヒー、不味いよ!?


「はい、免許証。これで、納得して頂けましたか?」

「あら本当。では伊藤さん、ワタシと付き合ってください」

「いやいやいや、どうしてそうなる!僕たち知り合いとかでは無いよね、なぜ?」

「それは、ワタシの第六感だからなのです」

「え???」

 今日は何度フリーズすればいいんだ…

「すみません、言っている意味が分かりません」

「第六感というのは、人間の持つ五つの感覚とは別の…」

「それは分かってます。僕が聞きたいのは、初対面であるにもかかわらずどうして僕と付き合いたいか、という事です」

「ですから、第六感です。ワタシは今日一日第六感の導きで行動せよ、と言われたのです」

「だ、誰に!?」

「朝の占いです」

 おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 普通、12で割っただけの信用度の低い占いなんぞを信じて、ここまで行動を起こすか?マジでヤバいんではないですか、この人…あ、でも可愛い…

 また騒ぎになっても面倒なので、なんとか説得を試みてみよう。


「コホン。貴女が第六感と言っておこなっていた事、これは全て間違いです」

「なんですって!!」

「僕の事、鈴木と呼びましたね?でも伊藤でした。コーヒーが美味しいと思って入ったこの店のコーヒーは(小声で)激マズでした。そして…いや、他に思い当たる事もあるでしょう」

「そうね…先ず家を出て、こちらの方角が良さげと通った道で犬に吠えられたわ。次にこの電車に乗ればハッピーな事が起きると思えば故障で遅延。やっとこさ着いた駅を降りて、入った映画館にて面白そうと見に行った映画はクソ駄作。あとは…」

「・・・いや、もういいです。こちらから聞いておいてなんですが、なんかすみません」

「いえ、謝るのはワタシの方です。こちらの勝手な思い込みで、ご迷惑お掛けしました。第六感であなたに交際を申し込みましたが、すっかり嫌われてしまいましたね…」

「あ、それも違いますよ。別に貴女の事、嫌ってなどないですし、むしろ…おっと、ゲフンゲフン」

「え?」


 


 これが只今絶賛交際中の彼女との、出会いであった。今思い返してみても、危ない奴だったのではないかと思う。だが、少なからずもこの時好意を持ってしまったのは、僕も第六感とやらにビビッと来たからではないのか…なんて、ね。




 

 




 

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彼女の第六感(それ)を、恋と呼ぶ 胡蝶花流 道反 @shaga-dh

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