エルシィの感想その10

 昼下がり。

 白金色の太陽が、ゆるく水面を照らしている運河。

 エルシィに全てを話し終えたのは、遊覧ゴンドラにプカプカ揺られながらだった。

 色んな観光地を巡ってて変化には富んだ旅だけど……二人してぼけーっとマヌケ面になってる時間が長くなった気がする。

 思えば最近、何だか野盗を相手にするのもめんどくさくなって、のんびり街道コースを歩くようになっていた。

「……上から目線とか、ヘンなことは勘ぐらないで聞いてほしいのですけど」

 考え込んでいたエルシィが、ゆっくりと口を開いた。

 薄く、桜色をしたそれは、白磁の肌と相まって素直に綺麗だと思う。

「ひとりで、良くがんばったと思います」

 上から目線だね。

 殊更、言わないけど。

 でもまあ、これが種族格差だ。

 仕方がないよね。

 

 さて。

 あのダンジョンをクリアして、【器用】の君臨者であるロレンツォを殺してチェーンソーに取り込んだ。

 ボクが取り込むべき君臨者は、あと二人。

 【力】担当と【知力】担当だね。

 実のところ【力】の方はもう居場所を突き止めてある。

 これまたヒドいシリアルキラーらしいので、遠慮なく惨殺出来るね。

 本当の問題はそのあとの……【知力】だ。

 確実に、エルダーエルフを相手にする事になる。

 これまでのダンジョンの話で嫌と言うほどわかったろうけど、この種族は別格だ。

 運営もプレイヤーも、全てはあの種族の……その中でも能力に劣った落ちこぼれの掌で遊ばれていた。

 その君臨者ともなれば、神とサルほどの格差があるだろう。

 ……実のところ、君臨者狩りにそこまで興味が無くなって来ている。

 転移したての頃、成り行きで受注したクエストの一つ程度の認識しかない。

 別に、途中で投げ出しても犯罪にはなるわけでもない。

 だが。

 ボクと同じ使命を担うもう一人の男が、最後にはボクと殺し合う宿命にあると言う。

 ドロップアウトは、どうやら許されそうにない。

 それに、

「レイさん。この旅が終わったら、どうするんですか?」

 って問題を、エルシィに先取りされちゃったよ。

「何も考えてないよ。それこそ知力が200にもなれば、何か見つかるかな? って感じかも」

 何故だか。君臨者狩り以上のデカいクエストは、もう巡ってこない気がする。

 ただ。

 目標があろうが無かろうが、ヒトは何かをして生きなきゃいけないのは、どの世界も同じだろう。

 金に困る事はもう無さそうだから、隠居して、食っちゃ寝で人生浪費するのもまた“動いている”と言える。

「そう言うエルシィはどうなの。順当に考えれば、村に帰るのかな?」

 これはちょっと、ある予感がありつつ、あえて聞いた。

「帰らないと思います」

 やっぱりか。

 ボクがあのダンジョンから助け出されて、エルシィに引き渡されて。

 近くに故郷の村があるってのに、わざわざ野宿していたのが引っ掛かってたんだよね。

 帰りたく、ないのかな、って。

「ただ、どのみち……あなたとは、ずっと“一緒”にいると思いますよ」

 ずっと、ってのは具体的にいつまでなんだか。

 結婚して一ヶ所に落ち着く線もなしって、この前、満場一致で決まったじゃない。

 流れ者を続ける場合、ボク、多分そんなに長生きできないよ?

 下手をすれば、これからエルダーエルフに殺されに行くようなものだ。

 けどまあ。

 

 “一緒”か。

 その言葉も、嫌いではない。

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(外伝)邪聖剣チェーンソー ~異世界でヒトを殺したらダンジョンに投獄されたから、ハーレム作ったりサメとかデーモンとかと戦ったり追放があったりヒトを殺したりする話~ 聖竜の介 @7ryu7

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