第23話 ローリィ(ロレンツォ)のアンデッド工場

 第8層はとても清潔感のある雰囲気だった。

 乳白色を基調としたカラーリングにも関わらず、汚れが全く目立たない。

 元々ゴミや死体は長時間残らないから、最低限度の衛生は保たれているのだけど……ここは、それを考えても潔癖すぎるほどだ。

 で、向かって左手にガラスのような障壁。

 その奥では白衣のエルダーエルフが多数、無数の簡易ベッドに寝かせたナニカを魔法的にアレコレしている。

 白衣に緑色が入ってる者も居るあたり、ハンターエルフも混ざってるようね。恐らくは、知力が種族限界くらいの。

 うん。

 死霊術師が、ダンジョン内のアンデッドを作っている工程をわざわざ可視化してくれてるわけだ。

 資源は言うまでもなく、ダンジョン内の犠牲者やモンスターの残骸。

 ダンジョン全体を賄うだけあって、一人あたりの作業効率もすげー良いね。

 ……恐らくは非営利。

 そこまでして知識欲と承認欲求を満たしたいのかよ、下衆どもめ。

 ちなみに向かって右側もガラス張り。中は水で満たされている。

 サメが泳いでいるね。

 ボクのサメ殺しルーチンもいい加減対策されてて良さそうだけど、一応やってみるよ。

 サメが、ガラスをすり抜けて襲いかかってきた。

 いつも通りにやった。嫌な慣れだね。

 で、サメはやっぱり真っ二つになって、潔癖な床を海水と臓物で汚したよ。

 後方から、ぎんこうの「ほぅ……!」と言う感嘆の溜め息が聴こえた。

 死霊術師どもはノーリアクション。こんな労働環境だからか、肝が据わってるね。

 何となくそんな気はしてたけど、何も対策がされていないよ。

 もしかして……ボクのサメ解体ショー、結構外の観客にウケてるのかな?

 どうも、それしか原因が思い付かない。

 国営とは言え、これだけ大規模なダンジョンと街ひとつ分の拠点が経済的に回っているとなると、観客人口、あるいは客単価も相当だろう。

 選手プレイヤー一人一人に、推しだとかファンだとか居るのかもね。

 コロッセオと、大体の理屈は同じだよ。

 しっかし。

 アンデッドの製造工程を見せたいってコンセプトのフロアだろうに、常にサメへの警戒を強いるってどうなの。

 ロレンツォへのアンケートボックスとか置いてほしいよ。

 

 で、ボクにはたまたま“シャーク・スレイヤー”の特性が備わっていたから、じっくり見学出来るんだけど。

 まず第一に、遺体の損壊具合で分類分けがされているね。

 これによってゾンビにするのか、ミイラやスケルトンにするのかがまず決まるのだろう。

 また、状態の良かったゾンビが再度返り討ちに遭って出戻り、損壊が激しかった場合はスケルトンコースに移されるようだね。

 ゾンビの場合は、やっぱり脳の保存が第一だね。

 なるべく生前に近いポテンシャルを維持しつつ、恐怖や躊躇に邪魔されず無差別殺人を行えるよう、脳を弄くってる感じか。

 それでも判断力や魔法の思考能力はガタ落ちするだろうけど、そこは生者の制約から解き放たれたタフネスとのトレードオフだろう。

 スケルトンやミイラとなると、稼働方式自体が変わってくる。

 脳による自立行動が望めないため、魔法でプログラミングしてやらないといけない。

 ゾンビとはまた、分野違いの技術者が必要になるのだろうね。

 まあ、こいつらはアンデッドの中でも賞味期限が見えてる奴らだろうね。

 普通に考えてゾンビタイプより出来る事は減るし、耐久性も落ちる。

 次にここへ死に戻りして来た時に修繕する価値もなし、と判断されれば今度こそ廃棄になるのだろう。

 ただ、稼働方式が生の脳から魔法プログラムになっているあたりは、悪い事ばかりでも無いだろう。

 ヒトと機械の違いと同じだよ。

 優劣と言うよりは、応用が利くか処理能力が強いか、得意分野の違い。

 今まで遭遇した高レベルのスケルトンと言えば、サメゾーンの幽霊船長くらいか。あれは状況が特殊だったから、きちんとしたサンプルにならなかったけど……恐らく、上層階のスケルトンは、ゾンビより遥かに精密で鋭い反射が実現しているだろうね。

 あっ、今しがた殺したサメが、早速転送されてきたよ。

 おいおい、それすらも流れ作業のようにこなしてるよ。

 少しくらい、疑問とか持とうよ……。

 アンデッド・シャークでも作る気なのかな。

 作る気なんだろうなぁ。

 

 なるほどなるほど。

 大変勉強になりました。

 何だかんだ、工場見学って有意義だよ。

 机の上で理論を聞くだけじゃ、ここまで具体的なイメージわかないもん。

 知ってどうなるよ、ってのは禁句だけど。

 

 勿論、エンカウントするモンスターもアンデッドばかりだ。

 出来立てほやほや、工場直送、新鮮なゾンビどもだよ。

 工場見学の醍醐味だね。

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