第21話 イッツ・ア・ビッグワールド

 うん。

 やっぱり“ああああ”だとかは分かりにくいし、ボクとしても言いづらいからリネームしよう。

 戦士1、戦士2、戦士3、魔法使い1、ぎんこう。

 これで確定ね。オーケー?

 

 第7層は、一言で言えば“巨人のおうち”だね。

 全体的に革テントを模したデザイン。床にはあちこち、毛皮の絨毯と言うか座布団? 非常に重たいもので長時間圧縮された形跡があるね。

 ボクの背丈の倍くらいはある、無垢材のテーブルがあったり、魔女の大釜みたいなものでシチュー的なものがグツグツ煮えてたり。匂いは、ちょっと癖のあるミルクっぽくて美味しそうだけど……あー、あっちの釜のやつから、明らかにヒトの腕っぽいのがだらりと下がってるね。

 食品に加工されたヒトはテレポート回収されないのか。

 ま、巨人だってたんぱく質摂らなきゃいけないし、強制的にこのダンジョンに召喚しているホストとしては、当たり前の配慮だよね。

 しっかし、このフロアが巨大なのかボクらが小人になったのか、感覚が狂うね。

 ここもサメゾーン同様、長居するべきじゃないって第六感が告げているよ。

 

 大音響のゲップというか、あからさまな“私、猛獣ですよ”アピール甚だしい鳴き声がした。

 犬歯が文字通り剣のように異常発達した……巨大サーベルタイガーだね。家具よりは小さいし、飼い猫か番犬って所だろう。

 奴が一歩動くたび、全身の膨大な筋肉が滑らかに動くよ。

 で、まあその見た目に違わず、瞬間移動のような速さで戦士3を襲う。

 戦士3はきっちり反応して受け流したけど、多分、ついていけてると言うより経験によるカンだけで対応してるのだろうね。

 戦士2が鉤爪つき手甲だとか、靴に仕込んだ隠し剣だとかでタイガーを引き裂くけど、ほとんど筋肉に阻まれている。

 けど、HPは着実に削れて行ってる。

 タイガーが戦士2を捕らえーーようとしたタイミングで、火炎弾が炸裂。魔法使い1も流石だ。

 彼は“氷炎術士”の二つ名で呼ばれるほど、攻撃魔法のスペシャリストだ。二つ合わせて、極大な消滅呪文とかやってくれないかな?

 今のボク、陰のあるクールキャラだから、そーいうバカを頼みづらいんだよね。

 興味ないね、って顔を一貫してなきゃいけないのは、これはこれでしんどいよ。あっ、フルフェイスマスクだから、表情は関係ないんだけどね。

 変顔しながらクールキャラを演じるってお遊びとかも出来るよ。ぐへへへへ。

 で、ボクも密かにフョードル憑依して陽動に参加しつつ、リーダーである戦士1が巨大金槌でタイガーを痛打。

 HPをゼロにして、爆殺した。

 ……ペットですらコレっていう絶望感を与える演出なんだろうね、ここでタイガーとエンカウントしたのは。

 

 肉は牛で胴体の骨格は巨大なヒト、という二足歩行の……所謂ミノタウロスってやつが出現。

 迷宮の風物詩だね。

 多分、さっきのシチューとかのミルク源はこいつかな?

 家畜ですらコレ(以下略)

 HPをゼロにして爆殺した。

 

 満を持して、第一村人と遭遇。

 家具から想像はしていたけど、見上げる体高だね。

 腰に毛皮を粗末に巻き付けただけで、あとは裸。

 最低限の羞恥心はあるのか、放送事故を避けるためか。

 手には、どこから調達してきたのか、ブロック片みたいな石塊。ゴキブリでも駆除するようなノリなのだろう。

 やっぱり、構造はヒト型であっても、これだけ身体が大きいと戦いの……いや、生き物としての条理すら違う。

 やっぱりと言うかなんと言うか、連結した大斧で思い切りぶっ叩いても、神経に届いていないみたいだよ。

 せいぜい、ボクらがたまに紙で指を切っちゃう程度。よくて、軽く血が滲むくらい。

 リアルにスーパーアーマーやられるの、かなりヤバイ。こっちは全力で長柄武器振り抜いてるのに、それを喰らった相手は痛がる素振りもほとんどなしに、ブロックを振り回して来るんだよ。

 これも、敏捷性に優れた戦士2とボクが交互に撹乱しつつ、戦士3が適度にタンクを担い、戦士1が一気にHPを持っていく。そして、誰かが迎撃されそうなタイミングで魔法をスタンバった魔法使い1か、ぎんこうの岩石スリングショットで阻止。

 この、生物的格差の甚だしい相手に対しても、既に磐石な戦術が確立されていた。

 これも無事、HPをゼロにして爆殺した。

 

 途中でメスの巨人にも遭遇。

 やっぱり、胸部も粗末な毛皮で隠しているね。

 ほか、特筆事項は無いかな。

 とりあえず、あとは回数を重ねて彼らの連携に馴染む事だね。

 鉄柱みたいな腕が振り下ろされた直後、それに乗って頭部を殴ってみるとか、アクロバティックな挑戦もアレコレやってみた。

 持論だけど、遊びを真剣にやれない奴は仕事も出来ない。

 こんな一般巨人くらい、遊びながらやれるくらいにしとかないと、余裕が無さすぎる。

 余裕の無いボトムラインで仕事をし続けてる状況というのは……僅かなミスで即死を招くと言うこと。

 先日ボクが言った、1000万円を目標とする話にも通じるね。

 で、そんなこんなで、HPをゼロにして爆殺した。

 

 ボス部屋。

 一番エライ巨人の居住区だけあって、スペースはめっちゃ広く取られてるね。

 なんたって、ジャイアント大公ロードってくらいだから。

 お召し物も、ちょっと豪華だね。

 なめし革の上下を着て、ヒトのドクロを使った首飾りをつけている。ご丁寧にも、四個のしゃれこうべは、種族が一つ一つ違う。

 ボクは嘔吐ーーしそうになって、堪えた。

 レザーマスクの下で粗相したら、大惨事だ。畜生。

 で、まあ。

「フォーメーション・デスペンタグラム、行けるか?」

 クールキャラの声色で、ボクはメンバーに告げた。

 マスクの下では白目を剥き、舌をベロベロさせながらね。

 皆にはあらかじめ、カリスのパーティで使っていたローラースケート靴……を改良して普通の靴にも可変のそれを配っていた。

 仕込み靴を愛用していた戦士2には履き替えの手間をかけさせたけど、特に不平もなく応じてくれたよ。

 そして、魔法使い1を残して、五人でジャイアント・ロードの周囲を滑る。

 魔法使い1が、局地的なブリザードを浴びせた。

 視界が遮られ、筋肉が凍えたジャイアント・ロードは苛立たしそうにもがいた。

 初動から綺麗に成功した。

 あとは簡単だ。

 全周囲、逃げ場の無い陣形を急速に縮めて……五人同時に巨人を強打!

 巨人が鉄柱みたいなものを横凪ぎに振り抜くけど、その時にはもう、ボクらは間合いから離れている。

 鉄柱を振り抜いて筋肉が延びきった所へ、またまた魔法使い1のブリザードが襲いかかる。

 HPが尽きるまで、この繰り返し。

 回数を重ねるごとに、巨人の癇癪はつのっていって、動きが稚拙に成り下がっていく。

 しまいには、無駄な地団駄を踏む始末だよ。

 そこもきっちり捉えたボクらは、ラストスパートでフルボッコにしてやった。

【ジャイアント・ロード HP:0/8,943,100】

 そして、HPをゼロにして爆殺した。

 

 こんなもんだよ。

 カリスのパーティで、さも信頼で成り立っていたように見えた芸当だけど、昨日入ったばかりのーー汎用キャラ寄せ集めたパーティであっさり再現できたよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る