第5話 ボクが加入するに値するかの実地試験

 さて。

 ちまちまレベルマックスまで鍛えた挙げ句、ようやく、初の第2層だ。

 土と緑の匂いが鼻腔をよぎる。

 人工感ハンパないけど、森をモチーフとした飾りつけがされたフロアだった。

 ボクの眼前を、大型犬くらいの何だかごちゃごちゃした大軍が進撃してくる。

 巨大な蜘蛛……ヒト食いタランチュラとか言う奴らだ。

 そんな情景を容赦なく焼く、即席の太陽が生まれた。カリスの魔法だ。

 熱光波はダンジョン森を隙間なく塗りつぶし、蜘蛛たちを焼き払う。

 太陽が消えて、視界が晴れた。

 ボクは普通に前へ出ていた。

 生焼けの蜘蛛が、まだそれなりに残っているのを悟っていたから。

 で、普通にカリスの討ち漏らしを斧でばっさり。

 斧を振り抜いた所へ、別の蜘蛛が背後から襲ってくるのを感じるけど、

 【脊髄反射の復讐リフレクト・カウンター

 伸びきったはずのボクの腕は、ボク自身ですら想定していない速さで、背後の蜘蛛を叩き落とし、相当数の距離、転がり飛ばした。

 空気の流れや陰影の動きなど“気配”と呼ばれる微細な情報から、ボク自身が考えるより先に身体が反撃する魔法だ。

 無理な動きをさせられるから、腕がすごく痛い。泣きそうだ。

 で、まず気付いたこと。

 あれだけ派手に範囲魔法ぶっぱなしたにも関わらず“森”はほぼ無傷。

 恐らく、余計な損害を出さないよう敵だけを結界でトリミングして戦略級魔法を思う存分放ってると言ったところか。

 器用な事だね。

 で、何匹かの蜘蛛を仕留め損ねていたのは、多分ボクを試すためかな。

 ……なんて考えていると、木々を伝ってめちゃくちゃ太い、縄みたいなものがカリスへ襲いかかろうとしていた。

 ヒト食いアナコンダってやつだ。

 彼の機動力では逃げられまい。

 ボクは、即時、カリスに向かって駆け寄る。

 けど。

 カリスは、ボクの予想を遥かに上回る俊敏さで退避、アナコンダに手をかざした。

 白いモヤが放射して、瞬間的に極寒の冷気がボクの肌まで刺した。

 アナコンダはパキパキに凍り付いた。

 びっしり霜がこびりつく身体を、必死に溶かそうと頑張るけど。

 肉眼で目視できない、小柄な影が落ちてきた。

 弓剣を手にしたリーザの姿が現れた時にはもう、アナコンダは両断されていた。

 ふぅん……。

 リーザは期待どおり。

 カリスは……どうなんだろうね?

 なんて考えていると、後衛からメスの悲鳴。

 ナターリアさんだね。

 めんどくさいけど、向き直ってやる。

 包帯で梱包されたカラカラの死体が、大挙してアルフとナターリアさんに襲いかかろうとしていた。

 あからさまにミイラってナリだけど、包帯が真新しくて白いあたりにディテールの粗さを感じるね。

 “原材料”が何なのかは、考えたくもない。

 ヒトへの死霊術って、違法行為じゃなかったのかねぇ。

 まあとにかく、アルフが盾を掲げて突進。ナターリアさんを守るために踏ん張っている。

 で、初めて彼の肉弾戦を見るんだけど……短剣だね。彼が持つと、まるで爪楊枝のように頼りなく見える。

 実際、使いにくそうに、ミイラの頭を刺し貫いている。

 武器の選定センスはダメなほうなのかな。88点は過大評価だったかも。

 でもまあ、今、アルフが一人で頑張らなきゃならない理由は、ボクのミスだ。

 思ったより自衛能力の高いカリスはほっといて、ナターリアさんの守備に回るべきだったね。

 ナターリアさんも、流石はドワーフで、ハンマーで力任せにミイラどもを叩き潰している。

 けど、このままだとヤバイね。

 ミスの埋め合わせをするとしよう。

 ボクは、おもむろにカードの束を取り出した。

 手作りだけど、トランプカードだ。

 それをシャッフルし、一枚引き当てる。

 ♣️の7だ。

 死角からナターリアさんに襲いかかっていた、一匹にそれを投げつけてやると。

 ミイラの上半身が、見えない鉄球重機モンケンでぶん殴られたかのように歪み、ひしゃげ、ぶっとんだ。

 次のカード。

 ♠️の4だね。

 これを、アルフに掴みかかろうとする一匹に投げた。

 カードが触れた瞬間、ミイラは腹から横一文字に分断された。

 これはボクの攻撃魔法【他人で運試し】と言う。

 魔法思考をあらかじめトランプの絵柄と紐付けする事で、ボクがトランプを目視した瞬間に、カードを起点としてそれが実体化すると言う仕組みだ。

 ♠️(剣)は斬撃、♣️(棍棒)は打撃、🖤(さかずき)は強酸の滝を頭上からぶっかけ、◆(ダイア・金貨)は……ダイアモンドのごとき冷気!

 えっ?

 ◆だけ苦しいんじゃないの? だって?

 どうせ思い付かなかったんだろ、って言いたいわけ?

 比喩表現だからいいんだよ! ボクがそうだって言ったらそうなの。

 とにかく、どんどん投げるよー。

 ミイラ自体が脆い相手だと言うのもあるけど、カード投げるだけでバタバタ壊れてくれるのは爽快だね。

 絵柄を目視するだけで良いから、事実上の無詠唱。

 ランダムなのが玉に瑕だけど、充分な魔法的思考強さを得るには、直感的に馴染み深いトランプがベストだった。

 どうだい、アルフ? 敵の頭数が減っていって、徐々にラクになったきたんじゃない?

 実際、アルフは反撃に転じていた。

 ……あれ? いつの間に持ち変えたんだか、今度は長槍を片手で使いにくそうに突き出しているね。

 両極端だなぁ。

 でもまあ、短剣の時もそうだったけど、何だかんだで上手いこと切り抜けてるね。

 ……って、見てたら、アルフの持つ槍が手品みたいに消えた。

 入れ替わるように、今度は連結棍棒フレイルになったよ。

 これまた使いにくそうにではあるけど、何だかんだとミイラに命中させて、頭を粉砕している。

 ……ははぁ。

 多分だけど……アルフの武器は、時間経過か何かでコロコロ入れ替わるものなのかな。

 死体循環システムだとかのテレポート技術を応用すれば可能だろう。

 普通に考えたら、使えたものではないよ。

 ボクもコロコロ武器を変えてるけど、それは君臨者憑依で無理を通しているから出来る事で。

 やっぱり武術って一点特化で鍛えた方が絶対にいい。

 同じレベルだとして、大剣だけを鍛えたヒトと大剣も短剣も欲張って勉強したヒトとでは、前者の方が強いだろう。

 アルフの持つアレが何種類の武器に変身するのかは不明だけど……あっ、今度はレイピアに変わった。

 これでボクが見た限りでも4種類か。

 しかも、どれも地味に専門性の高そうな武器ばかりだ。斧やメイスなら、まだ力任せにぶん殴るだけでもそれなりに使えるだろうに。

 で、まあ、とにかく普通ならゴミだね。あの変身武器。

 でも、もしもそれを使奴がいたとするなら。

 受ける側として、これほど対策しにくい武器もない。

 だって、持ち主ですら、次に何が出るのかわかんないんだもん。

 あっ、そう言ってる間に、今度は戦闘用ツルハシウォーピックになった。

 で、とにかく。

 アルフの本分はパーティの盾役でもあるし、リーザと同レベルの攻撃性能は求める必要はないだろう。

 そう考えれば、アルフが使う分には良い武器なのかもしれない。

 で、そんなこんなで、鎖つき鉄球になった武器をぶんまわして、アルフは最後のミイラを粉砕。

 ひとまず、戦闘は落ち着いた。

 

 さて、宝箱が出現。

 それを目視するや否や、ナターリアさんが秒で駆け寄り、箱を半開きにした。

 大抵、このダンジョンの宝箱にはワナが仕込まれている。

 ボクも捕らえた野盗を使って相当数実験したけど、半分以上の確率で即死もんのトラップが仕込まれている。

 ワナのトリガーはこれも千差万別だけど、かなり複雑なブービートラップであることが多い。

 で、ナターリアさんはこれを、少しの躊躇もない手付きでカチャカチャ。

「はいっ。オッケーです!」

 なるほどね。

 ハンマーで戦う筋力はオマケで、本分はこちらか。

 【器用】要員のドワーフ。

 つまりは、ドワーフの盗賊シーフと言ったところだ。

 評価を、少し上方修正しとくよ。

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