ホバーボードの開発  パワードスーツ ガイファント外伝 〜五感と第六感をフルに使って逃げるレオンを捕まえるシュレ〜 KAC20223

逢明日いずな

第1話 レィオーンパードの苦悩


 移動手段として、ボードを浮かせて地面を滑空するものを、ホバーボードと命名した。


 きっかけは、パワードスーツ用の外装に使う装甲に風魔法を施し、内部発熱を放熱させようと考えていたのだが、その装甲を床に置いていたところ、シュレイノリアが、間違って踏んづけて、魔法を流してしまったところから始まる。


 風魔法の魔法紋が発動した事で、浮き上がり、地面を滑るように動き出し、壁に当たり、跳ね返る。


 何かに当たる度、方向を変えるが、魔法紋が発動中は、浮き上がったまま、動き回っていた。


 それを見たジューネスティーンが、ホバーボードを開発した。


 しかし、ジューネスティーンが用意したのは、ボードだけで、魔法紋は、描かれず、その魔法紋は、シュレイノリアが、担当した。


 ただ、そのホバーボードを開発するにあたり、実際に浮き上がったボードを動かす必要がある。


 実験を行うためのテストパイロットが、必要になり、シュレイノリアは、弟分である、ヒョウの亜人であるレィオーンパードに依頼を出した。


 レィオーンパードは、初めて見るホバーボードが、走るより早く動くことが可能になると言われて、興味を持ったので、テストパイロットを引き受けた。


 しかし、初めて見る、地面から浮くボードを、簡単に操縦できるわけがなく、それにシュレイノリアの魔法紋の開発と調整が入る。


 ただ、魔法紋の基本開発は、直ぐに終わるのだが、初めてホバーボードに乗るレィオーンパードの動かすという感覚、それに連動して駆動させる魔法紋、力の調整が、そう簡単にいくわけがない。


 レィオーンパードは、最初こそ、面白そうと思って、シュレイノリアに付き合っていたのだが、直ぐに転ぶので、まともに進むことができないのだ。


 そのうち、レィオーンパードは、飽きてきたことと、生傷が絶えないことで、テストパイロットから逃げるようになった。


 しかし、シュレイノリアは、そんなレィオーンパードを、最初こそ、まかれてしまって、逃げ切っていたのだが、ある時から、逃げることができなくなってしまった。


(ここなら、どうだ。 シュレ姉ちゃんでも、見つからないだろう)


 レィオーンパードは、学校の使われてない倉庫の中に入って、放課後をやり過ごして、寮に帰ろうと思ったのだ。


(教室でも、シュレ姉ちゃんが、ジュネス兄ちゃんと、アンジュと3人で話をしていたから、俺が逃げるのには気が付いてなかった。 途中で付けられている様子も無かった。 倉庫に入る時、周りの気配も確認したけど、何も感じなかった)


 レィオーンパードは、悦にいった表情で、倉庫の奥で体育座りをしていた。


(今日は、絶対に見つかることはない)


 良しと思った様子で、これから、どうやって時間を潰そうかと、レィオーンパードは思った様子で、倉庫内を物色する。


(寮の夕飯まで、何か時間を潰してないとな。 ……。 何かないかな)


 すると、倉庫の扉が開いたので、レィオーンパードは、扉の方向を見ると、そこには、シュレイノリアがいた。


「おい、レオン。 ホバーボードの開発だ。 お前は、テストパイロットだ」


 レィオーンパードは、絶対に見つからないと思っていたのだが、あっさりと、シュレイノリアに見つけられた事に、呆気に取られていた。


「おい、急げ」


 レィオーンパードは、仕方無さそうにシュレイノリアについて行く。




 翌日も、その翌日も、レィオーンパードは、シュレイノリアから逃げようと、手を尽くして隠れる場所を変えて、やり過ごそうとする。


 しかし、シュレイノリアに見つかってしまった。


(なんでなんだ。 いつも、シュレ姉ちゃんに捕まってしまう。 教室から出る時とか、完全に気配を消しても、違うものに気配を変えてもダメだった。 隠れる時だって、周りに人の気配は無かった)


 レィオーンパードは、青い顔をしている。


(それに、隠れていても直ぐに見つかってしまう。 あれは、教室から迷い無く、俺のところに来ている。 今日だって、隠れた後に外の気配を確認していたら、あれは、絶対に迷い無く、俺の場所を見つけている)


 レィオーンパードは、自分の五感の他に、第六感と言われる、周りの気配を感知しやすい。


 特に、亜人は、五感より、第六感に優れているので、人属であるシュレイノリアやジューネスティーンより優れていた。


 学校に入る前、始まりの村で、魔物を探す時は、常に、レィオーンパードの五感と第六感を頼りにしていたのだ。


 その当時なら、レィオーンパードが隠れてしまったら、2人には見つけることができなかったのだ。


 しかし、入学して、ホバーボードの開発が始まった頃から、状況が変わったのだ。


 最初こそ、上手く逃げられたのだが、今では、どんなに上手く隠れても、見つかってしまうのだ。




 レィオーンパードは考えた。


 今日の隠れる場所は、男子トイレに隠れた。


(ここなら、大丈夫だ。 流石のシュレ姉ちゃんでも、男子トイレには入って来れない)


 今日はやり過ごせると思っていた。


 しかも、トイレの個室は、ダミーで二つの個室も閉じて、内側から鍵を閉めておいた。


(トイレといっても、ダミーで閉じてあるなら、特定するのは難しいだろう)


 そう思って、安心していると、自分の入っている個室の扉をノックされた。


「おーい、レオン。 シュレが呼んでるぞ」


 その声は、学校の授業の関係で、一緒にパーティーを組んでいる、男性エルフのカミュルイアンの声だった。


「レオーン。 おーい、聞こえているんだろう」


 レィオーンパードは、青い顔をしている。


「カミュー、何で、俺の場所が分かったんだ? 」


「ああ、シュレが、トイレの個室の奥から2番目にレオンが居るから、呼んできてくれって言ってた」


 それを聞いて、レィオーンパードは、ゾッとした表情をする。


(まただ。 何でなんだ。 ここに入る前だって、周りに人の気配も無かったんだぞ。 しかも、ダミーで別の個室も閉じておいたんだぞ)


 レィオーンパードは、諦めた様子で、個室の扉を開ける。


「なあ、レオン。 他の個室の鍵閉まっているんじゃなのか? イタズラは良くないぞ」


「ああ」


 そう言うと、ピョンと飛び上がって、個室の上から入ると、鍵を開けて出てきた。


 カミュルイアンに言われて、ダミーにしていた個室もちゃんと直した。


「なあ、カミュー。 何で、シュレ姉ちゃんは、俺の場所が分かるんだ? 」


「さあな」


「俺、ここに入る時、周りの気配を確認したんだぞ。 誰にも見られてなかったんだ。 今まで、魔物にだって気付かれたことなかったんだぞ。 それが、何で、シュレ姉ちゃんに通じないんだよ」


「オイラが、分かる訳無いだろ。 そんなに気になるなら、シュレに直接聞けよ」


「チェッ、聞けるかよ。 そんなこと」


「おーい、レーオーン」


 トイレの入り口の方から、シュレイノリアの呼び声が聞こえた。


 その声を聞いて、レィオーンパードは青い顔をするのだが、その表情の変わりようを見て、カミュルイアンは、しらけた目でレィオーンパードを見る。


「諦めろ」


 そう言うと、カミュルイアンは、レィオーンパードの肩を叩くと、男子トイレから出るように促した。




 男子トイレを出ると、そこには、シュレイノリアとウサギの亜人であるアリアリーシャがいた。


 身長160cmのシュレイノリアに対して、30cmも背が低いのだが、アリアリーシャは、もう、成人している。


 ウサギの亜人の女子にしては、少し背が高い方だが、ギルドの高等学校に入るため、食べるものをケチって費用を貯めたと言っていたので、体の線は細く、身長的にも見た目も子供に見える。


 そのヒョロヒョロの体型のせいもあり、クラス内のパーティーを組むとき、子供と間違えられて、周りからは戦力外と見られていたので、ジューネスティーンが、誘ってくれた。


 それで、授業のパーティーメンバーとして、行動しているのだ。


「レオン。 ホバーボードの開発だ。 また、乗ってくれ」


 シュレイノリアは、ぶっきらぼうに言う。


 そして、歩き始める。


「ねえ、何で、アリーシャ姉さんもいるの? 」


「アリーシャは、見学。 ジュネスの構想の中では、レオンとアリーシャにホバーボードを使ってもらう事になっている。 だから、今日は見学だ」


「じゃあ、アリーシャ姉さんもホバーボードに乗るの? 」


 レィオーンパードの質問に、シュレイノリアは、立ち止まって、レィオーンパードを見る。


「何を言っている。 テスト中は、レオンにしか乗せない。 アリーシャは、完成してからだ」


 シュレイノリアは、表情を変えることなく答える。


 それを聞いて、レィオーンパードは、ガッカリするのを見て、アリアリーシャは、シュレイノリアに尋ねる。


「ねえ、シュレェ。 レオン、大丈夫なのぉ? 」


「ああ、問題無い。 あいつは頑丈だ。 アリーシャには、完成度が上がってからだ」


「うん」


 アリアリーシャは、まだ、慣れてないのか、ホバーボードについて、話を聞いたが、直ぐに終わらせた。


(レオンが、可哀想だと思ったけど、でも、遠目で見た時は、とんでもない転び方をしてたから、とても痛そうだったのよね)


 アリアリーシャは、申し訳なさそうに、レィオーンパードを見ると、シュレイノリアの後ろを歩いていく。


(でも、何でなの? ヒョウ系の亜人の人は、気配とかに敏感だというし、自分の気配を消すのも得意なのに、シュレは、迷いなく行動していたわ。 ホバーボードを私に見せるだけななら、カミューを連れてくる必要は無いのに、予め、声をかけていたのよ。 男子トイレの中に隠れていたと分かってなければできない行動よね)


 アリアリーシャは、後ろの男子2人の顔を見る。


 ガッカリしたレィオーンパードと、それを宥めるカミュルイアンが居るのを見る。


(不思議よね。 第六感以上の力が、シュレには有るってことなのかしら。 ……。 最初は、どうかと思ったけど、シュレの能力は計り知れないわ)


 アリアリーシャは、希望に満ちた表情をして、シュレイノリアの後を歩いていた。

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