第六感が当たっちゃう誕生日

成井露丸

『三月九日生まれO型の貴方。今日は第六感がバンバン当たる日になるでしょう。恋愛運も急上昇。自分の直感を信じて、素敵な一日を送ってね!』


 いつも見ている占いチャンネル。朝、牛乳をたっぷりかけたケロッグのチョコワを大匙スプーンで口に運びながら見た誕生日占い結果に、あたしはガッツポーズを決めた。


 何これ? めっちゃ良くない?


 大好きな動画チャンネルで、毎朝やっている占い。

 普通の血液型占いや星座占いもよく当たるんだけど、特に当たるのがこの「誕生日占い」なのだ。


 その日が誕生日の人のことを、ピンポイントで占ってくれるのだけれど、これがめちゃくちゃよく当たるって評判! (注:あたしの中で)

 去年も、一昨年も、贔屓目なしで当たったし。

 お母さんの誕生日も、弟の誕生日も、このチャンネルの「誕生日占い」はびっくりするくらいに当たったのだ!


 だから今日、私の「第六感」は冴えわたるに違いないのである!


 ルンルン気分で食べ終えたお皿を流しに置くと、私は学校の鞄を手に、勢いよく自宅を飛び出した。


「いってきま~す!」


 まるでエスパーにでもなった気分で。


 *


「――というわけなのよ、恵那。あたし、エスパーだから。今日のあたし、まじエスパーだから」

「由香里、ほんと、信じやすいよねー。でもそこまで言うんだったら、私も今日はちょっと、由香里のこと頼っちゃおうかなぁ〜」


 登校路。途中で合流した親友の恵那は、そう笑った。

 耳を隠していた長い髪を掻き上げながら。


 朝、家を出て、学校に向かうこと十五分。

 すでに私の第六感は冴え渡っていた。

 家を出て、今に至るまでだって、直感が当たりまくっていたのだ。


 そこの曲がり角から、きっと恵那が出てくると思ったら、そのとおりに彼女は出てきた。

「あぁー、もうすぐ遮断器が下りそうだなー」と思ってJRの遮断器の手前で、早めにダッシュを始めたら、本当にカンカンカンカンとが下りてきた。


 小さな話ばっかりだったけれど、あたしは感じていたのだ。

 確かな第六感の冴え渡りを! やばい!

 これならきっと今日は大きな山だって当てられる気がする!

 でも、大きな山ってなんだろう?


「でも、恋愛運が良いのは羨ましいなぁ〜」


 由香里はそう言って目を細めた。


「え〜。恋愛運なんて、私には関係ないよ〜。由香里にあげちゃいたいよ〜」


 彼女は可愛い。

 整った顔立ち。育ちの良い振る舞い。綺麗な髪。

 親友の贔屓目というのもあるかもしれないけれど。


 それに男の子の視線を集める「出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる」プロポーションだって持っている。

 実際に多くのが男子が彼女を目で追っているのだ。

 その女子スペックの三分の一でもあたしにあれば、ちょっとは高校生活も違ったのかな〜、なんて思ったりするのだけれど。


 なお、あたし――三島由香里には、そのようなものはございません(断言)。


 そんなこんなで、恵那はあたしにとって大プッシュの女の子なのだ。

 本当に幸せになってほしい!


「ほんとに恋愛運――ほしいなぁ〜」

「――大丈夫だって。恵那なら! 恵那のこと好きにならない男の子なんているはずがないんだからっ!」


 両手で掴んだ制鞄を揺らしながら、アンニュイな表情を浮かべる彼女の顔を、私は笑顔で覗き込んだ。

 彼女は「ありがと」と微笑み返した。


 そんな彼女――水原恵那は恋をしている。

 あたしだけはそれを知っている。


 相手は同じクラスの山下祐樹くん。

 生徒会副会長も務めるさわやかな優等生。 

 彼だって恵那のことは、きっと好きだと思う。



 高校の校門まであと一〇メートルほどに迫ったあたしたち。


 その時だった。

 私の頭の中に「第六感」の光が煌めいた!


 ――きっと今日、恵那と山下くんの間に何かが起きるッ!!


「――どうしたの?」

「ん? ……何でもないよ!?」


 校門手前で振り返った恵那に、私は返す。


 きっと顔には無意識の笑顔が浮かんでいに違いない。


 それは恋が動き出す予感!


 だから、今日きっと、あたしは、恋のキューピットになるんだ!


 溢れた笑みを、恵那に気づかれないように誤魔化して、私は走り出した。


 *


 思ったとおり。それは昼休みにやってきた。

 お弁当を食べようと思ったら、山下くんがあたしに声をかけてきてくれたのだ。


「――三島さん。ご飯食べ終わったら、ちょっと話したいことがあるんだけど、ちょっとイイかな?」

「ん? いいよ?」

  

 山下くんが私に話しかけてくることは珍しい。

 クラス内もその様子をみて、ちょっとザワザワし始める。


 その中でも、あたしの第六感は朝の続きで輝きまくっている。

 これは、きっと告白の仲介を頼まれる流れなのだ。

 直接、恵那に言うのが恥ずかしいからって。


 高嶺の花の恵那に話しかけるより、あたしの方が話しかけやすいんだよね?

 うんうん。わかるよー、山下くん。


 斜め前の席で恵那が振り返り、ちょっと驚いたような顔をしている。

 そんな可愛い親友に、あたしはウィンクを返した。


『――見てなって。あたしがちゃんとキューピットをしてあげるから!』


 そんなメッセージを乗せて。


 *


 昼休みの校舎裏。春近しと、梅の木が白い花びらを覗かせる。

 先を歩いていた山下くんが立ち止まった。

 そして振り返る。

 

「――三島さん。今日はどうしても君に言いたいことがあったんだ」


 美男子と言っても差し支えのない整った顔に、思い詰めたような表情を浮かべて。

 フフフフフ。知ってるよ! わかっているよ、きみの気持ち!


「うん。――わかってる。山下くん。あたしは山下くんの言葉を受け止める準備、あるよ。――だから遠慮せずに言って!」


 あたしの「第六感」が教えてくれている。

 これは恵那への告白。

 山下くんは、あたしに恵那への思いを伝えようとしているのだ。


 そして、あたしは晴れて恋のキューピット!

 あたしの大切な親友――水原恵那の恋を叶えるキューピットになれるんだ!


 あたしの言葉にちょっと安心したのか、彼は緊張で強張らせた顔を少し緩めた。

 そして一つ頷くと、山下祐樹くんは、あたしの方をじっと見つめた。


「ありがとう」


 両手を握りしめた彼と、あたしの間に一陣の春風が吹いた。


 やがて彼は目を細め、優しい表情で、口を開いた。


「――三島由香里さん。君のことが――ずっと好きでした」





























「――ハァ?」

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