第28話 リリィが目覚めたよ

 目が覚めると、周りはまるで宇宙空間でした。

 外には花畑が広がっています。

 私はまだ寝てるのかな?寝直したら夢から覚める?

 もう一度寝れば、ベッドの上に戻れる?

 でも随分と長い時間、寝ていた気がする。

 最後の記憶は、普通に何時ものベッドで眠りについた時でしょうか。


 あれ?ハッキリと見えないけど、お花畑に光輝く物が飛んでる。

 窓の淵には、すごい数の光がキラキラしてる。

 というか、この宇宙空間、壁がある。

 不思議に光が入り込まない。

 あと、星かと思った物は、外にもあるキラキラしている何かみたい。


 へんなの。


 そうだ、夢なら歩けるよね?

 先ずは立ち上がってみよう。


 よっこいしょ。


 立ち上がったけど、ふらふらする。

 立ち上がれただけでも成長したと言える?

 でも歩けないから成長してないね、夢でもこんな調子って何なの?

 夢の中くらい自由な夢を見せてくれたっていいじゃない?


 いつもの様に、へなへなと座り込んでしまう。


 お花畑に行こうって?

 それは、お花に悪いよ。

 足で歩けないから、お花をいっぱい潰しちゃう。

 え、大丈夫?

 大丈夫ってどうして?

 潰れないの?

 そうなの?

 そうなんだ。

 嘘だったら、承知しないよ?


 四つん這いでゆっくりと窓の外に出る。

 どこまでも続くお花畑。

 やっぱり夢なんだ。

 潰れない花たち。

 見た事もない花で、あたり一面に咲き狂ってる。

 試しに、手でお花を潰してみる。

 お花は元通り。

 ほんとだったね、貴女の言う通り。


 貴女?


 私は誰と話して──。

 突然目の前に現れたのは大人の女性……?

 口と口がふれあい、舌まで入って来る。

 大人のキスだ。

 夢なら良いかと思い、そのまま身をゆだねた。

 キスが終わり、唾液が細い糸を引く。

 すると、周りのキラキラしたものは全て手のひらサイズの精霊になってしまった。

 女性は立ち上がり、私の小さな体は軽々と持ち上げられた。

 お姫様抱っこして、何も言わず、何処かに行こうとする。


「わー、精霊だー………、精霊だー!!!」

「精霊は嫌いであるか?」

「いいえ、精霊の友達が欲しかったところです」


 だって、魔力吸収してもらわないと、また熱出ちゃうからね。

 魔力草はなんだかんだ、育てさせてもらえなくて、八方塞がりだったのよね。

 ここで、精霊を連れて帰れたら、全てが解決するかもしれない。


「成程のう、そういう事情であったか。ただ、それは本当に友達であるか?」

「え……?もしかして、私の考えてる事、読んだ?」

「うむ、面白いから続けて考え給え」


 考えを読まれない様にしないといけないと、考えた。

 でも夢だし良いかな。

 そういえば、以前、森の中で、木々の間が少し輝いた物が見えていた。

 あれは精霊だったのかもしれない。


 精霊の1体が私の顔に近寄って来る。

 私と一緒に来てくれるかな。

 夢だけど。


 精霊はにこやかに微笑み、私に口づけをする。

 なんか、私の夢、キス魔ばかり現れる。

 私がそれだけ欲求不満なの?

 そんな馬鹿な…。

 そう言った方向の発散って何かした方がいいのかな?

 まいっか、減るものじゃないし。


「おーい、リリィ!やっと起きたのかー」

「あ、フェンリル先生~、夢でも可愛いですね~」


 遠くから駆けてくる先生。

 お花畑を駆ける先生も、また絵になります。

 可愛いから、絵画に起こしたいくらいです。


「先生まってー!ってリリィ起きてる!よかった~」

「あれ?アレクまで、夢に出て来たのは初めてかなぁ」


 クマにのって走るアレク、ついに操縦できるようになったのかな。

 折角ならアレクの夢で操縦出来ればいいのにね。


「おい、これ夢じゃネェぞ」

「そうだよ、まだ寝ぼけてるの?」


 先生が、夢じゃない証拠として、ほっぺをペシペシ叩いて来る。

 肉球が気持ちいい。


「ほら夢じゃないだろ?」

「もっと叩いて~」

「おい」


「じゃあ、夢じゃないならここは何処なの?」

「精霊界だよ、気づくでしょ、普通」

「あ、あああ、そうなんだ、じゃあここの精霊連れて帰れば、私の魔力吸い取って貰える?」

「精霊は魔力を吸わないぞ、どうしてそんな考えになるんだ?」

「フェンリル先生が以前言ってなかったっけ?」

「魔力を吸うのは妖精だぞ」

「あー……」


 精霊と妖精の違い、それは精霊は実体がなく、妖精は実体があるだったっけ。

 あれ?でもあの時、妖精は…。


「妖精って見えないって、言ってなかった?」

「普通は見えないぞ、奴らは短時間だが姿を消せて人間に悪戯するからな、姿が見える状態でも隠れるのが得意だぞ」

「じゃあ今、目の前に見えてる精霊のは?」

「実体はないぞ、ここに居る小精霊は俺達に分かりやすくする為に妖精の恰好を模しているだけだ」

「じゃあこの女性の方は?」

「精霊女王は特別な存在だぜ、実体を作って憑依している。祝福の口づけを受ければこの世界の出入りが自由になるぞ」


 遊園地の無料入場パスかな?うん?口づけ?

 さっきされたんだった!

 前世、今世あわせてファーストキスは精霊女王ですかちょっと複雑……。


「ここにはどうやって入ったの?」

「駄目元で突撃してみた、まさかすんなり入れるとはね、導かれたんじゃネェかな」

「じゃあじゃあ、どうして入る事になったの?」

「えー?リリィ何にも覚えてないの?」


 アレクが大袈裟と言う程に驚き、先生もヤレヤレと言った感じに頭を振る。

 残念ですが、事実なんですよ。

 それから、これまでの流れを説明された。

 誘拐されてたとか、本当に記憶が無いですよ。

 まぁ、生きてるだけよかったと思います。


「それで、私の熱が出るのは完治したの?」

「いや、魔力蓄積のキャパが増えただけで、溢れると結局同じ事になるよ、貯め込まない方法を見つけないとだね」

「先生は魔力食べないの?」

「食べれるけど、まだ子どもなんだ、小食なんだよ」


 結局、先生に攻撃魔法を教えてもらう事になった。

 と言っても、いつでも撃てるわけじゃない。撃てば騒ぎになるから、使うのは本当に危険な時だけ。

 そして、攻撃魔法を覚えてしまうと、後戻りできないと釘を打たれた。


「そういうデメリットがあるんだ」

「僕はもう覚えたから、後戻りできなくなったよ」

「嬉しそうね、アレク」


 デメリット、それは一般的に人間が使う魔法が使えなくなる事。

 魔力の放出の仕方が一般とは根本的に違い過ぎた。

 普通の魔法は魔力の塊を飛ばして対象を破壊するのに対して、先生方式は魔力で物質を包み込み、用途に応じて変形させる。

 例えば攻撃する場合は、魔力の棒を伸ばすような感じで対象まで伸ばして対象を攻撃する。

 それはある意味、魔力の手を伸ばすような感覚になる。


 攻撃魔法にしたい場合は、その伸ばした先の魔力を変質させる。

 既に『何かを掴む』という無意識に出来ているけど、それは吸引という変質らしい。

 それはつまり、接触した状態でしか発動できない魔法とも言える。

 ただ、そもそも普通は魔力が見えないのだから、傍からは魔法を飛ばすステップが省略された魔法に見える。


 魔力の伸ばすという感覚にも一癖あった。

 訓練すればどこまででも伸ばせる物らしいが、私にはその形状の保持が殆ど出来ない。

 先生になると細い枝くらいの太さで10m程伸ばせる。

 速度は野球のボールを投げる程度の速度で、それも訓練次第で早くなるそうです。

 変な例え方になるけど、何処までも伸びる透明な如意棒で攻撃するような感じみたいだ。

 ただ、その際に問題になるのが、一つ間違えば魔力で包んでる物自体を破壊してしまう事だ。

 先生が危惧するところはそこで、私の場合、手足が自由に動かないからと言って、それを魔法で補って動かそうとすると何かがあった時にうっかり、手足が引きちぎれる何て事になりかねない。


 そして、攻撃魔法を使う際、縫いぐるみを使わないなら、木の枝みたいな棒を代わりに使う。

 棒に魔力を纏わせて、長い棘のような物を伸ばして対象を破壊するだけなので、イメージが簡単でやりやすいだろうと言われた。

 先生は手で持てないから、そのあたりの感覚は想像で話している。


 そして私が今までやっていたのは、一瞬の変形、しかも1m程の長さ、それと硬化だ。

 そこから、対象を爆破するとこまで行くと最早後戻りはできない。

 アレクはそれで、本当によかったのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る