第27話 奴隷身分だよ3

(スミレ視点)


 鎧を着た方々の襲来。

 そんな人達に対抗する力なんてないから、連れさられ、またもや牢屋に巻き戻りかと思った。


「うーん、この肖像画と違うな」

「そうだな、すまない、騒がせたな」


 ぞろぞろと帰っていく人騒がせな人達。

 なんだったの?

 動悸が収まるまで茫然としてしまい、落ち着いた頃に女将が説明してくれた。


 あの方達はリリィルア様を捜索しに王都から派遣された兵士達で、この街を拠点として捜索しているという事。

 この宿屋にも何人か泊まっていているらしい。


「女将さん、知ってたなら、教えてくれたっていいのに」

「すまないねぇ、でもこればかりは見てもらうのが一番だから、一応、本人かもしれないじゃない?」

「まぁいいですけど」


 ちょっと拗ね気味に言うと、お詫びにジュースを貰った。

 それだけで、ちょっと幸せな気分。


「じゃあ、明日の朝からお手伝いお願いしていいかしら?」

「はい、任せてください!」


 そうして、ここでお手伝いする事になりました。

 ちょっとヒヤッとしたけど、思った通りいい人ばかりの街みたいです。


「という訳で、お手伝いする事にするわ。宿屋代無料になるね!」

「じゃあアッシも瓶づくりのバイト頑張ってくるでゲスよ」

「へぇ、もう見つけたんだ」

「魔力ポーションの瓶なんでゲスが、大量に使うという事で、日々作ってるみたいでゲス」

「それ私でもできないかな?」

「暑いし、ムサイ男ばかりだから無理でゲスね、重労働でゲス」


 瓶づくりがこの街の主力産業なのかな?

 税金が安くてしっかりとした産業がある街は良いよね、街は潤うし、そこに住んでる人も優しくなる。

 前の街とは全然違うわ。

 あっちは、暗部が蔓延りすぎてて、多く儲けていたら、なんだかんだ徴収されるって話だもの。

 生きて行くのにやっとだって人ばかりだったわ。


 さてと、久しぶりのふわふわなベッド。

 じっくり堪能して明日に備えましょう。



 翌朝、朝食をさっと済ませて、女将のお手伝いが始まる。

 先ずは宿泊客向けの朝食の用意、それとは別にお弁当も用意する。

 お弁当は店頭で売り出していて、お客さんはそれをお昼ご飯にする。

 私は、仕込みが終わると、店頭販売を担当した。

 すると、びっくりするほど次々と売れて、あっという間になくなった。

 目が回る様な忙しさの中、一人2個、3個買っていく人が目についた。


 女将に聞くと、売り切れ記録更新だそうです。

 あまりにも早いと大喜び、追加で料理を作って出そうという話にまでなった。

 そういえばお客さんの一人は私を見て手を合わせ「見つかります様に」と拝んで行った。

 他の人の話も総合すると、私を縁起物扱いしているみたい。

 それで、売れに売れまくったという結果に。

 もしかしたらバイト代が出てもいいのでは?


 それから、店頭売りはもうないので、店内を手伝う事になった。

 料理を運ぶ担当となると、持って行く度に「えらいな」という声や、頭を撫でてくれたりする。

 そんな子ども扱いされても、ちょっとしか嬉しくないんだから、なんて思いつつ、お客の声に耳を傾けていた。


「聞いたか!?フレールの街※で奴隷商が摘発されたらしいな!」

(※スミレが1年間牢屋に入ってた街)

「ついにか、いい気味だ!それで、奴隷商は壊滅したのか?」

「それが残念ながら、殲滅とはならなかったらしい、でも大半は捕まったらしいぜ、あと

「なんですって!」


 皆の視線が一斉に私に向いた。

 やっば、つい大声だしちゃった。


「どうしたんだいスミレちゃん、あの街に何か嫌な思いででもあるのかい?」

「そ、それって、街の衛兵がやったのですか?」

「いや、なんでも、第四王子様が先陣をきって踏み込んだらしいぞ、包囲は冒険者や自警団だそうだ」

「あああ、私の王子様が……」


 待ってれば良かった。

 ゼゼドが私を買うのがあと1週間も遅ければ、王子様の手で解放されたと思うと、ちょっと悲しくなる。

 きっと前日譚が始まるまで、私達はすれ違ってしまうのね。

 それは、ロミオとジュリエットの様に。


「はは、女の子は王子様が大好きだな、よしよし、きっと会う機会もあるさ」

「そうだぞー、第四王子様はこの街にもちょくちょく来るからな」


 よし、この街で頑張ろう!

 過ぎた事は仕方ないわ。



 その夜、明かりを消して寝ようとしている時に気になった事を聞いてみた。


「アンタ、本当に私を買って後悔してない?」


 私はちょっぴり後悔してるけどね。

 それはタイミングが悪かっただけで、別にゼゼドが悪い訳じゃない。


「ないでゲス」

「即答なので、どうしてなの?何か理由あったりする?」

「姐さん、前に言ってたじゃないでゲスか」


 その言葉はすっかり忘れていた。


『いつか王子と結婚するのよ、そのために今、フラグを建てなきゃいけないの。だから協力しなさい、悪い様にはしないわ』


 あの頃は、目標に向かって全力で立ち向かってたのよね。

 懐かしい……。


「フラグがどういう意味か、アッシには頭悪くてわからないんでゲス。でも、目標がしっかりしてそれを目指してる姐さんは、アッシには眩しくて輝いて見えたでゲス。そう言うの応援したいんでゲスよ」

「あの、そのゲスって口調止めて言い直してくれない?」


 コホン。


「目標がしっかりしてそれを目指してるスミレは、俺には眩しくて輝いてみえた。そう言うの応援したくなるだろ?」


 うわ、なんだか、凄く照れ臭い。

 ゲスゲス言わないだけで、こんなに変わるなんて、うう、すごいドキドキするんだけどっ。


「慣れないでゲスね、ゲスゲス言わないと吐きそうでゲス」


 ……うーん、残念。

 見た目はそれ程悪くないのにねぇ。

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