第二部 強制力

第25話 奴隷身分だよ1

(ヒロイン視点)


 拝啓、お母さま。

 私は元気です。

 今、私は地下牢に入っています。

 かれこれ1年くらい経ってると思いますが、未だに私の王子様が現れません。

 こんな事なら田舎でも実家で暮らしていた方が幸せだったと思います。


「(また独り言よ)」

「(あんなのだから、買い手が付かないのよ)」

「(聞きました?オークション中に、呪いの様な謎の言葉を話し続けたそうよ)」

「(こわーい)」


 聞こえてますよ!

 牢メイトが聞こえる程度のひそひそ声で話していた。

 どうせなら堂々と言えばいいのにね。

 奴隷が手紙なんて書かせてもらう訳がない。

 その雰囲気で現実逃避したいだけなのに、彼女達がそれすらも邪魔をする。


 変なヤツに買い取られるくらいなら狂人装っている方が幸せなんです。

 まだ9歳ですよ?9歳の奴隷を買う人がまともなわけないでしょ。

 買ったその日の内にあんな事やこんな事されて薄い本にされちゃうんだわ。

 製本されるって意味じゃないですよ?


 でもあと1年もすれば、前日譚が始まる。

 そうなれば、シナリオの強制力で私は表舞台に立てる……よね?

 問題は男爵家の養女になるのって時期が明確になっていないのよね。

 本編での回想だったのと、見た目(身長や胸)的には1年、2年先という感じがする。

 どうして製作会社は回想に年月を明記してくれなかったのかしら。

 それだけで腹が立ってきた。


 王子さまや、お母さまじゃなくてもいい、あのお嬢様でもいいから助けてくれないかな。

 それであのお嬢様の名前、知らないんですよね。

 多分、登場してない方だからだと思うけど、みなさんからはお嬢様と呼ばれていたのよね。

 あと、部屋から出てこなかったからかなりの引き籠りか箱入り娘なんだと思う。

 家族で娘の部屋で食事取るとか普通じゃないでしょ。

 あの一瞬だけは目が点になったわ……。


 でも専属になれば、お世話の必要が殆どないし、どこかに引っ張りまわされる事もない。

 優しいから無理な命令もないし、普通に生きて行くのに十分な待遇が期待できるのよね。

 かといって、あの時誘拐に加担してなかったら、後で暗殺されてるでしょうし、本当に悪いと思うけど、私には選択肢が無かったのよ。

 ああ、こんなの言い訳だわ。

 そんな事情、お嬢様が聞いてくれる訳がないよ。


「(また独り言よ)」

「(今度は誰を呪うのかしら)」

「(こわーい)」


 あ、考えている事がいつのまにか口に出ていたみたい。

 睨みつけると、悪口を叩く子はこちらを見ない振りをする。

 視線を元に戻すと、また悪口を始める。

 典型的な腰抜けの嫌がらせね。

 これ位じゃ挫けないし、負けないんだから。


「あれ?姐さんじゃねえですか?髪の色変えました?」

「ん?アンタ誰よ」

「アッシですよ。いつぞや雇われて絡み役をさせられた。覚えてないんでゲスか」

「ああ、あの時のゴロツキ」

「そうでゲス、いや、本当に懐かしい、あのパン屋あの後潰れたんですよ、面白すぎでゲス」

「ふぅん、そうなんだ。それで何しに来たの?」

「お買い物でゲス、姐さんいくらで売られ……えっと青髪ロング9歳、こですかね、え。500ラント!?」

「ええ、そうよ。それでも買い手がついてないのよ」


 檻に掛けられている値段表には、見た目の特徴や年齢、値段が記載されていた。

 この檻の中で、私が最安値。

 他の子で最も低い子でも5万ラントだ。

 それが1コインで気軽にお持ち帰りできる。

 といっても、この檻の中の奴隷を買える人というのは、相応の身分か上客のみでそれ以外の客には売れ残りオークションで出品された時に買う事ができる。

 当然、このゴロツキに私を買う権利はなく、欲しければオークションに参加しなくてはならない。

 だけど、オークションでも売れ残ってる私は、従業員にでも売れるなら売りたいと思える程に落ちぶれている。


「この値段なら、アッシでも買えそうですね」

「え?買ってくれるの?って……変な事しないよね?」

「申訳ないんでゲスが、アッシにも選ぶ権利と言うのがありやして、その、子ども、それも平らなのは遠慮したいでゲス」

「胸があったら9歳でも抱くって言うの?」


 ゴロツキは微妙に時間を悩んで答えをだした。

 そもそも悩むなよ。


「う~~~~ん、それは置いておいて、姐さん、夢は抱かない方がいいでゲスよ」

「じゃあ何の為に買うのよ」

「そうでゲスねえ、どこかでバイトして稼いでもらうくらいでゲス?」

「ところで、上客でもないアンタがどうして買えるのよ」


 それは、あまりにも売れ残ってるから、従業員に斡旋されているらしい。

 なんだか、コンビニで売れ残りを従業員に押し付ける酷い店主を見ているみたいだ。

 さらに詳しく聞けば、表示値の半額でもいいと言われていたとか。

 飯屋の食事代よりも安いよ。

 結局、同情によって私はお買い上げされてしまった。


 簡易に拘束する隷属の指輪と違って、奴隷の売買には隷属契約が交わされる。

 アイテムではなく儀式によって拘束する物だ。

 二つの違いは契約解除方法、指輪は主人が外す事が条件なのに対して、契約は奴隷商人でしか解除できない。

 指輪は見た目で分かるが、契約は見た目が分からない。

 命令を逆らった時、指輪は指がちぎれるだけに対し、契約は呼吸が出来なくなり絶命する。

 そして、両方に共通しているのは、主人の許可がない限り魔力は使えない。

 主人が死んだとき、隷属魔法を使える人が居ないと、身動き取れずに餓死してしまう。

 当然、自分が奴隷だと言う事も出来ない。


 そして契約が執り行われる。

 その際、お互いに本名を名乗らなくてはならない。


「隷属の儀を執り行う。まず本名を名乗りなさい」

「………スミレです」

「ゼゼドだ」

「では、スミレはゼゼドに対して絶対の服従を誓い、病める時も苦しい時も死にそうな時もゼゼドを助ける事を誓いますか」

「嫌です」

「おいっ!」


 普通に嫌でしょ。

 こんなの奴隷契約じゃないですか。


「なんですか、結婚式みたいなそうでない宣誓は!」

「こんなもんなんでゲスよ、置いてくでゲスよ」


 あ、奴隷契約だった。

 やばい、また行き遅れ、じゃない、買われ遅れちゃう。


「ち、誓います!」

「よろしい、これにて契約が成立した」


 その時、私の首に輪っかが嵌まった感じがした。

 触っても何かがあるという感じがしないから、本当に無いのだと思う。

 ちょっと鏡見て確認したいよね。


「じゃあ、お代は250ラント」

「ほいほい(ちゃりーん)」

「と、これまでの食事代1年分、1万ラントな」

「えええ!?詐欺でゲス!そんなの聞いてねぇでゲス!」

「売れないコイツが悪い」

「まぁまぁ、こんな美人を買えたんだから安い物だよ~」

「「お前が言うな!」」


 結局、キッチリ払わされたらしい。

 ごめんよ、ゼゼド。

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