第14話 そうだ、家出しようよ3

 魔物が現れた!

 スライムAが現れた!スライムBが現れた!スライムCが現れた!

 スライムAの先制攻撃、クマの腕に15のダメージ!

 スライムBの先制攻撃、クマの腕に15のダメージ!

 スライムCの先制攻撃、クマの腕に15のダメージ!クマの片腕が破壊された!


 というイメージで、ちょっとピンチです。

 何度斬ってもダメージが入らないしで困っていると、冒険者の方々があっさり討伐。これは流石専門家と言うべきでしょうか。魔物退治くらい余裕!といって退治を買って出た事を後悔する。というか滅茶苦茶恥ずかしい。


「スライムはコアさえ潰せば簡単に倒せるよ」

「コアなんて見えなかったけど?」

「わかりづらいよな、ちょっと濃い部分があるのがそうなんだけど、次出たら後ろで観察するといい」


 守るつもりが守られたという事態は情けない。精霊の森の奥に一人で行けると思ってたのが、こうも心を砕かれるとは思わなかった。落ち込んでいると、ナナリムが無言で頭を撫でてくれる、まるで元気をだせと言わんばかりに。

 フォーグは私の情けない姿を見てゲラゲラ笑い、それをミレーとメルナが殴る蹴るの制裁を加える。これが、このパーティのテンプレだとカリムは言っていた。フォーグが私にさえ絡んでこなければ、いいパーティなんじゃないですかね?


 それで、クマの被害は腕を溶かされた程度、程度というか重体です!それを一番体格のいいディップが裁縫道具でぱぱっと直す。え、何?この人凄いんだけど。大きな両手剣を軽々と振り回す怪力の持ち主なのに、繊細な作業もできるなんて、凄くカッコよく見えます。それにしても、何で綿まで持ってるんでしょう?


「何でって、そりゃあ娘の縫いぐるみを良く修繕するからだな。だが、布の色が違うので修復した所が目立ってしまった。申し訳ない」

「い、いえ、ありがとうございます。これも味があって素敵です」


 それは正直な感想。お世辞と取られてしまったけど、修繕してもらった事も一生忘れません。一緒に行動しているだけですが、誰かと外で活動って前世合わせてした事がない分、かなり楽しんでいます。表情にはだしませんけどね?

 実際に冒険者のパーティー組んだらこんな感じになるのでしょうか。ほんと、いい人ばかりで運が良かったです。ただ、ソロでスライムに会ったら逃げよう。これは教訓です。あ、あと、フォーグ、お前は駄目だ。


 ◇ ◇ ◇


(カリム視点)


 森の中を進んでいると、開拓中のエリアが見えて来た。木々が倒されて開けた場所がそれなので分かりやすい。そして嫌な感じの団体が居る。偉そうに指示をしている者が恐らくはゼレイム・ロングナイト、領主の長男だ。

 その周りを冒険者が囲み、動物や魔物を見つけ次第、殺して回っている。中には国の保護対象としているユニコーンもあった。リリィがユニコーンを見た瞬間飛び出しそうになったが、そこはディップが静止した。

 冒険者同士の遭遇というのは、良い事ばかりではない。それは「バレなければ何をしてもいい」というのがまかり通るからだ。ただし、相手を全滅させるか口封じをする事が条件だ。相手は大人数、しかも、領主の息子を筆頭としている。そして彼の評価はかなり悪い。パーティとしても遭遇したくない団体だ。


「あれ、どうにかできませんか?」

「ちょっと無理な相談だ、身バレすると冒険者資格はく奪されるからな、それほど領主の血縁は面倒なんだ」

「ここは引くしかありませんか」


 そう思っている内に、別の団体がやって来て団体同士の戦闘になった。その新しい団体の戦力は桁違いで、領主の団体を一瞬で蹴散らしてしまう。呆気に取られて見ていると、その新しい団体をみたリリィは目を見開き震えながら言葉を洩らした。


「エレンラント第四王子…」


 その言葉に反応してか、少年がこちらを見て警告した。


「そこで隠れているのは何者だ!出て来い!」

「(フォーグ、嬢ちゃん連れて『隠密』使っててくれ)」

「(おけ)」

「(え、ちょ)」


 フォーグがリリィを抱きかかえ、隠密スキルを使い気配を消した。

 もう、近くには居ないだろう。

 俺達は少し騒がしくして、隠密の成功率を上げる事と囮になる事にした。


「あーあー、こちらはファイアエッジ、冒険者パーティーだ。俺はリーダーのカリム、抵抗はしないから手荒にしないでくれ」


 そういって、相手の元に歩み寄る。


「ここで何をしていた」

「精霊の森を荒らしている輩が居ると聞いてね、様子を見に来たんだが、君達もその類かい?」


 話しながら、リリィが言ってた事を思い出す。たしか、第四王子って言ってたのは、この子どもの事だろう。それってドラゴンスレイヤーって言われたヤツだよな?

 絶対敵わないな、だが王家の者なら手荒な事はしないだろう。王子は近寄って来るかと思いきや、そのまま素通りし、背後にあった、クマに近づいた。


「これはなんだ?」

「クマですね?」

「そんな事はわかっている、どうしてそんな物を持って来ているのかと聞いている、しかもどうやって運んだんだ?かなり邪魔だったろうに」


 いやあ、言い訳しずらいな。なんて言えばいいんだ?

 咄嗟に、ディップが言い訳をする。


「人形使いがいるんだ、貴重な戦力だから手荒な扱いはしないで頂きたい」


 リリィに聞こえるように言った事が功を奏したか、クマは手を振った。


「このクマは押収する、お前らは話を聞かせてもらうぞ、連行しろ!」


 致し方ない、ここは大人しく連行されよう。私達が連れていかれた時に、王子が居なくなっている事に気が付いたのは少し後の事。

 リリィの無事は祈るしかなかった。


─────────────────────────────────────

登場人物紹介

・ゼレイム・ロングナイト(侯爵子息、長男) 15歳

 父親を縮小したような、ころころした体形。偉そうに指示を出す事で、冒険者からは不満が出ている。性格は短気、我儘、打たれ弱い。

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