第12話

やり始めると、何でもないものだった。ただ、量が多いだけだった。でも、集中してやったからか、朝から始めた夏休みの宿題はオヤツの時間には終わった。

「タカオくんとマサオくんが来てるよー、そうすけー」

玄関からおかあさんの声がした。オヤツを頬張って、僕は玄関に向かう。

「今日はいたか、そうすけ」

「今日は僕たちも連れてってよ、蝉とり」

捕虫網を持った二人がかわるがわる言ってきた。

「二人とも宿題は終わったの?」

と、僕が聞くと、二人は声を合わせて

「まだ」

と、ニカッと笑った。


「抜け駆けすんなよなー、そうすけー」

僕が宿題を終わらせた事を伝えると、マサオは言った。

「俺なんて、窓から抜け出して来たんだからな」

タカオはおかあさんに閉じ込められて宿題をさせられていたのだと、説明した。

 そんなことを話しながら、僕たちはあの山のあの大木に向かっていた。

「毎日行ってたなんて、どんないいとこなんだよ、そうすけ」

マサオがそう言いながら肩をトンッと押してきた。


 昨日と変わらない風景。その大木はやっぱり、昨日と同じようにあって、蝉の声がそこいらじゅうから響いている。

「なんだ、あれ?」

タカオが走り出した。僕とマサオも続いて駆け出す。

「帽子だ!魔女の帽子だ!」

タカオはそれを拾い上げて、そのまま被った。

「汚いよ、タカオ」

マサオが注意する。

「それに、魔女の帽子は黒じゃんか。そんな茶色い帽子を魔女が被るもんか」

「わ、わっ」

タカオのその叫び声と同時にその帽子は砂のように崩れた。そして、その帽子だった塵は灰の様に風に運ばれていった。


 カラカラと音がした。振り向くとあの木の洞の中で小さなかざぐるまがクルクルと回っていた。


 僕はただ立ったまま、そのかざぐるまを見つめ続けた。


 頬に感じる風が止んだ後も、かざぐるまは穏やかに回り続けている。



-終-

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ひるとよかぜ ハヤシダノリカズ @norikyo

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