第8話

よかぜも、当たり前のようにドスンと僕の目の前に現れた。今日も昨日と同じように空の色がオレンジ色から薄暗い青に変わり始める時間だ。

「また、会ったな。えー……」

「そうすけ、そうすけだよ。よかぜ」

「そうか、昨日は名を聞いていなかったのだな。昨日はありがとう、そうすけ。助かったよ」

「よかぜは、ひるからみたまを盗ってるの?」

よかぜは僕の足元の木の洞をチラリと見てから、僕に向かいこう言った。

「そうか。今日は、ひるとも話をしたのだな。どんな話をしたのだ?」と。

そこからは、よかぜに聞かれるままに僕は答えた。修行の事、世界の事、神様の事、みたまの事、僕がひるから聞いた事を上手に引き出しては、僕が嬉しがるような自分たちの面白い話を上手く足しながら、僕の答えを促し、よかぜの気持ちをも僕に伝えてきた。

「そうか。ひるはそう言っていたのだな」

「うん。今、僕がよかぜに言った事にそんなに間違いはないはずだよ」

「私とひるが二つに分けられる前の話は、ひるが言っていた通りだ。それまでは、我々は一つだったのだから、記憶にも見解にも違いはない。でも、二つに分けられてからの話は随分と違いがあるな。」

ひるが自分たちの事を【一人、二人】と言っていたのに対して、よかぜは【一つ、二つ】と自分たちをモノのように話すのが少し引っ掛かったけど、僕は「うん」と頷いた。

「そうすけも思っただろう? バチがあたったのだと。そう、あの老婆は、バチを当てるために近づいてきた神様だったんだ」

よかぜはひると違い、神様という言葉を使う。

「あの時は黄昏時だった。太陽の出ている昼間に居続けなければ消えてしまうぞと脅されたと思ったひるは急いであの場を去ったが、あの時、神様でさえ、どちらが昼にしか生きられない運命のものか、夜にしか生きられない運命のものか、把握はしていなかったのだ。神様が把握していたのは、臆病で軽率な個性に昼の運命を背負わせた事、そして、強気で慎重な個性に夜の運命を背負わせた事だけだった。だから、少しの脅しで逃げ出したひるを昼間にしか生きられない運命を授けた片割れだと、ヤツが逃げ出した事で確認したのさ」

「よかぜがすぐに動かなかったのは……」

「ああ、自分がどちらの運命を背負わされたのか、動くならそれを確認した後だと思ったからだ」

「神様はそれをよかぜに教えてくれたの?」

「そうだ。『あっちが昼で間違いないんですね?』と太陽を追って飛んで行ったアイツを見失う前に詰め寄って聞いたんだ。すると、神様はさっきの事を私に教えてくれたよ。『あの軽率さと臆病さは間違いない』ってな。自分と同じ姿のものが消滅するのも、自分に消滅の危機が迫っているのもありがたくない話だし、確認はしなくちゃな」

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