萩市立地球防衛軍★KACその③【第六感編】

暗黒星雲

美女と湯けむりと侵略宇宙人

 奥萩温泉。萩市の山間部にある温泉郷である。大小七つの露天風呂が楽しめる秘湯として、隠れた人気スポットとなっている。


 本日、萩市立地球防衛軍がこの奥萩温泉郷へと慰労に訪れていた。


 本日のメンバーは、椿、ミサキ、ララ、ビアンカ、ソフィア、長門の女性六名だった。その中で一人、見た目が三歳児の椿はご機嫌斜めのようである。ムスッと頬を膨らませ、傍にいたアンドロイドのソフィアにブツブツと不満を漏らしていた。


「どうして正蔵さまは来られないのですか? もう春休みなのに」

「大学の方で用事があるみたいですね。ゼミの先生の、研究室の引っ越しとか何とか言ってました」

「むうう。そんなどうでもいい事なんてほっとけばいいのに」

「正蔵君がゼミの単位を落としたらどうするんですか? 留年になりますよ」

「それは困ります。ちゃんと卒業してもらいます」

「そうそう。ですから、ゼミの先生に恩を売る事も大切なんです。今日は私たち女性陣で楽しみましょうね」

「はい」


 それでも納得がいかない様子の椿は、ぷくっと頬を膨らませたままだった。そしてもう一人メンバーが足りない事に気づいた長門が質問した。


「ところで黒猫さんはどうしたの?」

「ああ、アイツね。例のお姫様に握手してもらって、ついでにハグされたからって、もう一生手を洗わないとかお風呂に入らないとか言ってんだよな。まだ三日目だけど、臭せえかってもんじゃないよ。火星あたりに捨ててしまいたいなあ」


 返事をしたのは狐耳のコスプレ少女、ビアンカだった。彼女は黒猫より階級が上で、一応、彼の上官となっている。


「しばらく放置しておきましょう。そのうち正気に戻りますよ」

「ええ? どうして総司令はそう思うの?」

「簡単です。仕事をしない人は、私が折檻しますから」


 その一言で周囲が凍り付いてしまった。総司令の折檻とは、懲罰房に入れられるよりも酷いものらしい。


「さあさあ、ダメ男はほっといて温泉を楽しみましょう」


 総司令の一言に皆が頷いた。


 そして一行は、山あいの渓流沿いにある露天風呂へと到着した。


「わーい。温泉ですー」


 真っ先に素っ裸になった椿が湯船に入って行く。そして、メンバー全員が全ての衣類を脱ぎ去り、湯船に浸かった。露天風呂の傍には河津桜が植えてあり、今まさに満開となっていた。


「ミサキ総司令。相変わらず見事なバストですわ。サイズは99センチ?」

「うふ、そんな所ね。でも、長門さんのそのスリムな腰も素敵よ。女性の私から見ても羨ましい美しさね」

「いやだわ。私なんて、細いだけで魅力なんてありませんわ」

「私だって脂肪が付きすぎてるだけですよ」

「ご謙遜されなくても」

「お互い様ですね」


 慣れ合っている総司令と長門の傍で、一人ビアンカがブツブツと独り言を並べていた。


「あーあ。あたしの胸は総司令より小さいし、脚も腰もお尻も長門さんよりは太いし。あんな美女二人に挟まれてたら全然目立たないんだよな。あーどこかにイイ男、転がってねえかなあ」


 そんな都合よくイイ男が転がってるわけねえだろ。もし転がってたら、私が先に頂きます……。これはソフィアの心の声。


「さあ皆さん、お飲み物をご用意しいたしました。椿さまとララさまはコーラ、他の皆さまはチューハイでよろしかったでしょうか?」

「賛成! ストロング系でお願いします」

「もちろん、濃いめのレモンチューハイにしてありますよ」

「わーい」


 アンドロイドのソフィアが皆にグラスを配る。ビアンカは一気にチューハイを飲み干しお替わりを要求した。


「次、お願い」

「はいはい」


 ソフィアは笑顔でグラスを受け取り、お替わりを作りに奥へと下がって行った。

 

 コーラをちびちびとすすっているララだったが、彼女の表情が突然険しくなった。


「洗濯板? まな板? 絶壁? 断崖? アイガー北壁? 姉はマッターホルンのように突き出ているが、妹の方はその北壁と同じくぺったんこ?」


 そしてブツブツと訳の分からないことを呟き始めた。そのララに椿が声をかける。


「ララ様。どうされたのですか?」

「いや、何でもない。私は胸のサイズがどうのこうのというような事柄に対しては異常なほど勘が働くんだ。まあ、スーパー第六感といってもいい」

「スーパー第六感?」

「そうだ。今、妙な胸騒ぎと共に、胸元が寂しい乙女を傷つける悪想念をキャッチした。概ねあっちの方向」


 ララが指さした方向は、露天風呂のある傾斜地と向い側の山の斜面であった。


「あ! 何か光りました。これは多分、光学機器ですね。双眼鏡か望遠レンズ」

「何? あんな遠距離からのぞき行為をしているだと?」

「距離は約5000メートル。男性二名を確認しました。遠距離ですので身元の確認は不可能」

「何か投げる物はないか? これだ!」


 ララは露天風呂脇の洗い場に置いてあった石鹸を掴んで、件の方向へと投擲した。ララの手を離れた石鹸の初速は毎秒10キロメートル。しかし、石鹸であるが故に滑った。

 まるで流星のように輝きながら、そして周囲に猛烈な衝撃波を放ちながら、目標から大きくそれた石鹸は大気圏外へとすっ飛んでいった。 


「やはり石鹸だと滑る。今度はこれで仕留めてやる!」


 露天風呂脇の庭に落ちていた小石を拾ったララが、再び投擲しようとしたその瞬間、先ほど投擲した石鹸がすっ飛んでいった方向で何かが激しく爆発した。


「あ? これは不味い。飛行機か何かを撃墜してしまったのか?」


 地球防衛軍の隊長であるとはいえ、石鹸を投げて民間機を撃墜などしてしまったら立場がない。ララの表情が曇る。皆が爆発方向をじい―っと見つめる。


「あれは……大気圏外から飛来してきた……ミサイルですね。今、多次元スキャンをかけています。詳細は5秒後に」


 椿の見た目は三歳児だが、実は絶対防衛兵器のインターフェースである。彼女が意識を向けるだけで、イージス艦よりも正確に目標を捉えることができるし、脅威の種別なども容易に判別してしまうのだ。


「ふむふむ。あそこにいるのぞき屋さんたちが所持していた超望遠レンズ付きのビデオカメラに、ミサイル誘導用の電子ビームが仕込んでありました。彼らは単に盗撮を楽しんでいるつもりのようですが、その行為がミサイルを誘導していたと」

「ゆるさん! ソフィア! 行くぞ!」


 素早く服を着たララの体が黄金色に輝き始めた。また、金属製アンドロイドのソフィアも輝き始める。二人の姿は消失し、次の瞬間には5キロ先の斜面へと到達していた。そこには、先の衝撃波で気絶した男二人が倒れていた。ソフィアはその二人を担ぎ、ララは現場に残されていた双眼鏡と大型のビデオカメラを抱え、瞬間的に露天風呂へと戻っていた。


 気絶していた二人は、正蔵と黒猫であった。その二人を見つめ、ララがぼそりと呟く。


「油断も隙も無いとはこの事だな」

「はい、もう幻滅しまくってます」


 不機嫌だった椿はさらに不機嫌になったようだ。口を尖がらせて不満を漏らす。


「でも、正蔵さまがこんな犯罪行為に加担するなんて、信じられないのですが」

「これはね。多分、操られてたのよ」

「え? 誰にですか」


 ミサキが説明を始めた。


「今日、正蔵君はゼミ教官の所へ行ったのよ。そこで精神を支配されたの。黒猫さんもね」

「どうやって? 正蔵はともかく、黒猫まで支配されるなんて信じられんぞ」

「ララさん、落ち着いて。多分、性癖の弱みを突かれたのよ。正蔵君は巨乳女性、黒猫さんは肥満女性ね。ま、男の子って単純だから、性癖に刺さる映像を見ると〝おおおっ〟って心がそっちに向いちゃうわけ。そこに悪想念を注入され精神が汚染された。それでね、私たちの入浴映像を高値で買い取ると吹き込まれたの。のぞきが犯罪行為だなんて意識すらなかった」

「なるほど。ではあの、貧乳女性に対する罵詈雑言は?」

「多分、正蔵君の本音じゃないかしら。精神が汚染されたとはいえ、本人が思っていない言葉は出てこないものです」


 ミサキ総司令の説明に頷いていたララは、ムスッとしつつ正蔵の脇腹を蹴飛ばした。その衝撃で正蔵が目を覚ました。


「あれ? 俺は……どうしたんですか? ここは何処?」


 何も覚えていなかったらしい。


 何はともあれ、侵略宇宙人の策略に嵌まった正蔵が放った悪想念を、ララが鋭い第六感でキャッチした。その結果、侵略宇宙人の仕組んだテロ攻撃は阻止された。つまり、ララの第六感が地球を救ったのだ。そして、正蔵と黒猫は、一晩中、総司令の折檻を受けていたらしい。


※奥萩温泉郷はフィクションです。実在しません。探さないようにお願いします。

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