推しLOVE♥️ノンストップ

九戸政景

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「……あぁ、君は本当に可愛いなぁ……」


 とある民家の一室で、一人の男が暗い部屋の中でテレビ画面を見ながら恍惚こうこつとした表情を浮かべていた。画面内には男がいる部屋とは別の部屋の様子が映し出されており、その中で動くモノを見ながら男は嬉しそうに笑う。


「はぁ……君は本当に可愛いなぁ。その愛らしい顔、しなやかな体躯たいく、キメ細やかな肌……そのどれもが素晴らしい。君よりも可愛い物は、この世には無いんじゃないかと思うよ。そして、そんな君に囲まれながら生きる事が出来ている僕は本当に幸せ者だ……」


 男は幸せに満ち溢れたような顔で室内に熱っぽい視線を送り始めた。部屋の壁には敷き詰めるように写真やポスターが貼られ、棚には壁に貼られた物と同じ写真が入れられた写真立てが置かれており、傍らに置かれたパソコンの画面にはテレビ画面に映るモノについて様々な表現を用いて褒め讃えた文章と近くで撮られたと思われる画像が表示されていた。


「……熱心に行ってきた推し活の甲斐もあって、彼女のファンも少しずつ増えてきたし、写真や映像を欲しいという人も出て来た。これは本当に喜ばしい。

ただ……彼女の良さをわからない奴がまだいる事だけが残念だ。奴らは自分の推しの方が可愛いだなんて言うけれど、そんな事はあり得ない。彼女を超える程の可愛さを持つモノなんてあり得ないんだよ。今度アイツらとしっかり話し合わないと……」


 男性が少しイライラした様子を見せていたその時、部屋のドアが開くと、呆れ顔の女性と綺麗な黒い毛並みの小さなメスの柴犬が中へと入り、柴犬の姿を見た男性は満面の笑みを浮かべる。


「あぁ…… やっぱり君は最高だ……! そのつぶらな瞳、艶々つやつやとした毛並み、愛らしい表情に心を震わせる程の声……! 君こそまさに地上に舞い降りた天使そのものだ!」

「……兄さん。たしかにこの子が可愛いのは認めるけど、その姿は流石に気持ち悪いよ。部屋の中も写真やそれを使って作ったポスターで埋め尽くして、休みの日は自分で撮影して編集した映像を朝からずっと観てる上に職場の人やネットで知り合った人にも鼻息荒く広めて……そんなんだから彼女も出来ないんだよ?」

「彼女なんていらない。この子以上の魅力を持つ相手なんていないし、この子よりも自分を見てくれなんて言うかもしれないんだから、彼女なんていらない。そんなの煩わしいだけだ」

「まったく……世間ではそういう人はペットガチ勢なんて言うのかもしれないけど、兄さんの場合は過激派みたいなものだよね。ネットで出会った同じような人といつもサイトの掲示板やボイスチャットで口論してるし」

「アイツらはウチの子の方が可愛いなんて言うからな。たしかにアイツらの家の子達もそれぞれ魅力的だが、ウチの子の方が可愛いのは世界のことわりだ。そして、それを教えてやるのは俺の使命だ」

「はあ……まあ、この子が天使みたいなのは合ってるかもね。昔から夢中になれる物が無くて、毎日を退屈そうに生きていた兄さんの人生に潤いを与えてくれたんだもん。

あなたもこんな飼い主を持って大変だと思うけど、少なくとも悪いひとでは無いから、これからもよろしくしてあげてね?」


 抱え上げながら女性が微笑み、男性が再び恍惚とした表情を浮かべる中、柴犬は尻尾を嬉しそうに振りながら女性の言葉に答えるように大きな声でワンと鳴いた。

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推しLOVE♥️ノンストップ 九戸政景 @2012712

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