夢を叶える男【第5話 変貌】

カンダミライ

第5話 変貌

 母の一件を期に、女性に対する考え方や接し方が、僕の中で大きく変わった。


 会社では、積極的に女性社員にも話しかけられるようになった。しかも、ごく自然に。最初はぎょっとされ、よそよそしい反応だった。飾ってあった置物がいきなり喋り出すのだから、ある意味彼女たちの反応は、健全なものなのだろう。

 今まで、コミュ障だし、呼ばれてもあいつも迷惑だろう、と思われていた会社の飲み会にも初めて呼ばれた。


 「木嶋さん変わったよね~。わたし、あの人って他人に興味ないのかと思ってた。」


 「わたしもそうだと思ってた!でも最近なんかいいよね。体つきも変わってきたし。ジムとか通ってるのかな?今度聞いてみよっと。」


 サービス開始から2ヶ月目の最後の週末、満を持して僕は婚活イベントに参加した。費用は全て事務局がもってくれるというのだから、本当に四宮様々だ。


 僕はこの2ヶ月で自信に満ちていた。お見合い回転寿司というテレビでよく見る企画では、必死に自分をアピールするのではなく、相手との会話を楽しむことができた。これはこの2ヵ月間での大きな成果だ。


 結局、2人の女性と連絡先を交換して、その日1日は終了した。一人は明るい太陽のような、以前の僕ならたちまち翼を焼かれていただろう、まぶしく輝く女性だった。もう一人は落ち着いた大人の雰囲気のある、それでいてどこか寂し気な雰囲気の漂う、不思議な魅力のある女性だった。




 そしてサービス開始から3ヶ月目。四宮さんと喫茶店で待ち合わせた。


 「2ヶ月間のご利用、まことにありがとうございました。ご利用されてみていかがでしたか?」


 「四宮さんのお陰で、以前の自分とは別人になれました。この調子なら、きっと運命の人が見つかる気がします。それで、これからもサービスを継続させて頂きたいのですが…」


 「お気に召して頂けて光栄です。私もこのまま続けて頂ければ、きっと木嶋様の夢はそう遠くない未来叶うと確信しております。」


 ここからは無料お試し期間は終了し、3つのコースから選べるようになっていた。コースの内容は、50万円の生涯コース、10万円の1年間コースと、1万円の1ヶ月コースという不思議な料金設定になっていた。



 最初の2ヶ月は、食事から教室の費用まで全て無料だったが、四宮さんによると、もともとこの会社は、営利を目的としない団体だったらしい。しかし全く料金を取らないのでは職員の給料も賄えないため、3か月目から有料というシステムに変えたのだそうだ。お試し期間は最初の頃の名残だというが、客の約90%はお試し期間以降もサービスを継続しているので、このシステムが成り立っているらしい。


 料金は一括払いとなっていたし、そもそも一生涯なんて、本当に面倒を見てくれるのか疑問だったので、即答はできず、その日は四宮さんと別れ帰路についた。


 三日間悩んだ挙げ句、この2ヶ月で四宮さんのことを信用しきっていたし、生涯コースの方が圧倒的に割安だったので、このコースを選ぶことにした。幸い、趣味が古本屋巡りだけだった僕は、お金だけはたんまり持っていた。50万で一生分の幸せを買えるんなら、安いもんだ。


 それからは今までよりさらにステップアップし、自己啓発講座やプレゼン講座、さらには会計講座など、仕事に関する講座も受講するようになった。仕事なんてこれまでなあなあでやってきたが、人生で初めて、課内でトップの営業成績を残すこともできた。

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