胡蝶蘭のような君と恋をする。

玉井冨治

第1話

 この世界がどのようにして始まったか知っているだろうか。実は半世紀前までは五十年に渡り世界は核戦争をしていた。第一次世界大戦、第二次世界大戦以上の大きな戦争など起きないと言われていたのにも関わらず、第三次世界大戦は起きてしまった。『歴史は繰り返す。』とはよく言ったものである。

 争いは醜い。それは誰もが分かっている。しかし分かり合うことの出来ないのも誰もが分かっている。分かり合うことの出来ない者もいると分かっていながら、理解し合おうとするから争いが始まるのである。

 さて、この第三次世界大戦はどのようにして終戦を迎えたのか。それが一番気になるのかも知れない。そうでもないかも知れない。そんなことはどうでもよいが、第三次世界大戦は意外な形で終戦を迎えた。現代を生き抜く者ならば想像できると思うが、自国の友人の他にも他国の友人のいる者はそう少なくない。それが優秀なエンジニアならばなおさらであるだろう。当時にもそんな人は沢山いた。自分の母国と戦争をしている国は自分の友人の母国である。そんなことは結構あった。

 ジャンポという国には最高に腕の良いエンジニアがいたのだという。設計のセンスも作業もその全てが繊細そのもので誰にもまねできなかったのだとか。その彼にも海外に友人がいた。その友人の母国は日本という国と戦争をしていたチェリスという国であった。ジャンポとチェリスが戦争をしているとは言ったものの、実質的な戦いはそこではなかった。つまりジャンポ対チェリスなど小物なのである。一番大きな影響を与えたのはルシスとアムルスの戦争である。世界最多の核を保有する国同士の戦いなのであるから。これらの国が戦争するということは、アムルスの傘下であるジャンポとルシスと癒着しているチェリスが戦争するということでもあるのである。

 今のところジャンポとアムルス、チェリスとルシスしか出てきていないが勿論他の国も深く関わっている。戦争に参加していなかった国はほんの一部だけなのだから。その一部というのはアフリカ圏にある国である。戦争先進国の国々は核の保有がなく、技術にも劣るアフリカ圏のことは一旦無視することにしたのである。加えて、アフリカ圏の国々は昔から内戦や内乱が頻繁に行われている。放置していれば勝手に崩壊してくれると予想してのことでもあった。その予想の通り、ジャンポとアムルスの属する合衆国側がチェリスとルシスの属する独裁国側に勝った後、すぐに世界政府に取り込まれたのだった。

 第三次世界大戦は戦争に関わっている技工士たちがその仕事をボイコットすることによって終戦を迎えた。全ての国の技工士たちが全く違う場所で同じようにして仕事をするのを止めたのである。それによって戦争は政府の思惑通りに行かず、結果アムルスの所有していた核ミサイルでルシスの首都が崩壊することによって戦争は終わった。

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