第2話 感情一部損失症

 顔の近くにはいつも様々な花びらが飛び交っている。頭がお花畑で辛いことは何も知らないお嬢様だと思っていたが彼女も僕と似たような特徴があった。まるで些細なことのように色咲笑顔は感情一部損失症だと言った。


『悲しいとか分からないんだ~~』


 彼女はニコニコ笑いながら顔の近くに花を咲かせていた。





「あ、起きた? 今朝のニュース聞いた? 感情奪われちゃうんだって~怖い怖い」

「何のことだ? それに昨日話しかけてくるなって言ったろ?」

「だってもう友達でしょ? もっとニコとしゃべりたいよ」


 友達……。昔にも何度かそう言ってきたやつがいたがたいていすぐに縁を切られる。そして分かったことが一つある。そいつらは同情って感情や自己満足って感情に突き動かされて僕と友達になろうとしていただけということだ。


「それは同情でか? 友達ってのはお互いに様々な感情を理解し合える存在をいうんだろ? 僕たちとは正反対だ」

「……そんなつもりじゃ」

「いつもお花畑の君に僕のつらさは分からない」


 彼女に背を向けて布団を顔までかぶる。


(僕ってこんな嫌な奴だったんだな…………)



 ――退院の日が来た。


 結局僕たちはあれからまともにしゃべらなかった。退院の後に家に帰ると簡単な置手紙があり、誰も居なかった。


(独り……気楽、だな……)


『ニュース速報です……』


 つけっぱなしのテレビの音が静けさを際立たせる。


「そういえばあいつ、何で入院してたんだ? 感情損失のやつはそんな重大な病気なのか? ま、いいや……あいつは他人だ」


『犯人が今朝侵入したとのことです』


「さっきから何のニュースだ?」


 ニュースに目を向けると昨日までの入院していた病院がでかでかと映っていた。


『中継がつながりました。犯人は人質をとり、興奮しているようです。あ! 今銃のようなものが見えました! 病院を囲んでいる警察に逃走車を用意しろと叫んでいる模様……』


「――ッ!!」


 僕は家を飛び出した。





 家から五キロほど離れた病院に走って帰るにもかなりの時間がかかった。裏口から入ると小さな公園に大勢の人が集まっていることに気づいた。


「避難……あいつは……居るよな? ここに……」


 辺りを見回しながら公園を歩いて回る。と、後ろに何か触る感触があり、振り向くと彼女が笑っていた。こんな状況でも花を咲かせている。


「あれ? やっぱりニコくんだ。退院したんじゃないの?」

「いや、そうなんだけど。その、この病院がテレビに映っててそれで、」

「心配してくれたの~? ありがとう」

「……ああ。それとごめんなさい。あの時僕の方こそ君のこと全然わかってなくて怒ったりして……」

「ううん。いいよ。友達に喧嘩はつきものってね」

「そういえば、感情一部損失症って僕のよりも重大な病気なのか? 入院って……」


 彼女は少し困ったように照れ始めた。


「あぁ。君と私はあの病室に同時に入院したんだよ? 覚えてないよね」

「えっ?」

「ニコが橋から川に飛び込んだのを助けたの、その……実は私なんだよね……」

「!?」

「そしたら助けられなくて結局通りがかった人に2人とも助けてもらったってこと」

「じゃ、じゃあ何で僕が怒ったりだとか分かったの?? 具現化できないのに!」

「バッカじゃないの! 感情を具現化されたもので判断するなんて間違ってる。だって私なんて一生お花畑じゃん? ほんとバカバカしいわ!」


 急に口調が変わり、いつも穏やかな彼女が少し怒ってるように感じた。


「いい? ニコ。感情ってのは判断するものじゃないの。好きな人とずっと一緒に居てもそう簡単にわかるもんじゃない。私がニコを助けたいと思った時やニコが私を心配して会いに来てくれた時初めてお互いを分かり合える感情が生まれるのよ」


「……それが、友達ってこと?」


「うん!」


 彼女の顔を見ると今までにないほど嬉しそうな感情を表しているのが分かった。


 大事なことがやっと今分かった。感情具現化は感情を判別する道具じゃないってこと。そして、僕と彼女の間に生まれた特別な感情のことを「」と言うこと。


 そして悲観的に世界や自分のことを語るのはもうやめようと思う。今は彼女と話す瞬間瞬間に僅かな希望を見出したい。


 僕の名前はニコ。感情が具現化するちょっぴり変わった世界で僕は一人の少女とたくさんの感情を探して見つけていこうと思ってるんだ――!





<おわり>

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Emotions ミステリー兎 @myenjoy

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