続8話 新たな一歩


 熱海のデートは、無事?に終わった。


 あの一泊旅行は、僕達にとって忘れられない良い思い出になった。


 それは、僕の女の子としての最後のデートだった。


 僕は、男の子になるために、手術を受けなければならない。


 この前も手術一歩手前だったけど……あの時は女の子になる為の手術だった。


 今度は、本当に男の子になる為の手術だ。


 女の子の子宮や卵巣を取ってしまうと、僕はもう女の子には戻れなくなる。


 それに、女性ホルモンが少なくなることで、おっぱいの成長も止まるだろう。


 でも、心配なのは男の子になった僕を、二人の彼女は受け入れてくれるだろうか?


 毛深くなったり、髭が生えてきたり、筋肉がついて……声変わりしたり、おち○こが大きくなったり……。


 心配事は、いっぱいあった。


 僕のあそこが小さいのは、女性ホルモンの影響らしいんだ。だから……男の子になると……大きくなるかもしれない。


 って、先生に相談したら笑われてしまったよ?


 年齢的にもそんなに変わらないだろうって……。


 でも、ホルモンバランスを考えると時間はなかった。


◇◇


 そして……手術の日がやって来た。


「大丈夫!おたるん!私頑張るから!心配しないで男になっておいで!」


「おたくん!私も、手術してもおたくんはおたくんだよ?私の大好きなおたくんだよ?」


「杏子……雪ちゃん……僕も二人が大好きだよ?」


「「うん!」」


「いって来るよ……」


「「いってらっしゃい!」」


 僕は、移動用ベッドに乗せられて看護師さんに連れられて行った。


 白い部屋……機材がいっぱいの手術室。


「それでは始めるよ?おたる君?」


「はい……お願いします」


「麻酔をかけるからね?寝ていれば終わってるから安心なさい」


「はい……」


 麻酔のせいか……僕は……眠くなって来た。


 子供の声がする……君は?僕の娘?……そうか……僕が産むはずだったんだね……ごめんね……君を産めなくなってごめんなさい……。


 夢の中……僕は……可愛い女の子に会った気がした。


 もう、会うことは叶わない僕の子供……。


 ごめんね?


 でも、僕は産めなくなったけど……杏子と雪ちゃんに君を産んで貰うから……僕の所に戻って来てね?


 夢の中の女の子は、にっこり笑ったような気がした。


「約束だよ?私を産んでもらってね?お父さん♡」


「約束するよ……可愛い娘……」


 すると、夢の中の少女は……僕の中に消えていった。


 名前は覚えていない。


 彼女の名前を呼んだ覚えはあるんだけど、忘れてしまったようだ。


 目が覚めた時には、手術は終わっていた。


 僕は、男の子になったんだ。


 胸は、そのままになっているけど、男になった事で胸の張りは無くなって行くそうだ。


 なんか勿体無い気がするけど仕方がないよね?


 病室に運ばれて行くと、杏子と雪ちゃんが待っていてくれた。


「おたるん!」「おたくん!」


「無事に終わったみたい……」


「「良かったぁ……」」


 杏子と、雪ちゃんは目に涙を溜めていた。


 随分と二人には心配させてしまったようだった。


 僕は、今日生まれ変わったんだ。


 だから、二人を悲しませないためにも、僕はこれから、真の男の子を目指すよ!


 身長はまだ低いし、容姿はまだ女の子だけど……。


 保健室登校も、そろそろ真面目に復帰を考えよう。


 僕が医者を目指すには、避けて通れない試練だった。


「おたるちゃん?体の具合はどうだね?」


「お祖父様……まだ、ちょっと痛みます」


 お祖父様が、僕の様子を見に来てくれた。


 この病院は、お祖父様が院長をしている病院だから、こうしてすぐに来てくれるんだ。


「麻酔が切れて来たかもしれんな……痛みが酷ければ鎮痛剤を飲むといい」


 僕は……これまで夢で終わっていた事を、お祖父様に言う事にした。


「……お祖父様!僕、医者になりたいです!」


「僕みたいに、人には言えずに悩みを抱えている人はもっといると思うんです。だから……僕は、お祖父様のような立派な医者になりたいです……」


「よく言ったね……おたるちゃん……いや、もうおたる君か……医者の道は厳しいぞ?」


「頑張ります!」


「ならば、私はおたる君の祖父として、言えることはひとつだ」


「はい……」


 僕に緊張が走った。お祖父様が真剣な目を向けたからだ。


「努力を惜しまなければ、夢は叶う。……頑張りなさい」


「はい!」


 お祖父様から貰った言葉を胸に……僕は頑張る事にしたんだ。


 そして、退院の日。


 僕は、新たな一歩を踏み出した。


「行こう!おたるん!」


「おたくん!はい!手を繋ごう?」


 二人の恋人と共に……。







読者様へ


ここまでお読みいただきありがとうございます。


レビュー☆☆☆にコメント、応援♡を頂けたらとても嬉しいです。



ホルモンバランスや、体の事を考えると手術は避けられませんでした。おたるんにも心境の変化があったようです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る