第13話 雪ちゃん家に来る



 ――覚悟を決めたはずだった。


 昨日病院に行って……もう後悔しないと誓った僕は今、後悔していた。


 杏子に甘やかされ、杏子の優しさに甘えたままで本当にいいのだろうか?

 僕は、何か致命的な間違いを犯していないだろうか?

 

 ……だって僕はあの時、甘やかされた僕は……出来もしないのに、杏子としたいと思ってしまった。そんな事になれば杏子に嫌われると分かっているのに。僕は男の子なんだと痛感させられてしまったんだ。


 僕は、今まで男の子として生きてきたから、普通の選択ならばここは男を選択する事だろう。だって心は男なんだから。


 ……でも、僕は逆の選択をした。


 僕は、このまま女の子として……生きて行けるのだろうか?


 今は彼女が二人いるけど、大人の男が嫌いな彼女だからこそ、今こうして付き合っていられるんだ。


 僕は、男を好きになる事は無いし、彼女の事は大好きだ。


 ダメだ考えるだけ空しくなってしまう。


 彼女が二人もいるのに何を悩む必要があるって?リア充爆破しろ?爆発出来るものならもうしてるよ?


 もし、仮に僕に彼氏が出来たとしたら?……僕は彼と付き合えるかな?


 ………………ごめん無理だよ!僕には彼氏は無理です!

 

 今は良いかもしれない。でも、この先何年も……何十年も生きて行かなくてはならないんだよ?


 将来僕が彼女に捨てられることも……無いとは言えない。


 でも…………僕は、やっぱり彼女達との未来しか考えられない。


 僕には彼女達が必要なんだ。


 大切な妹の杏子と幼馴染の雪代。僕は彼女達が大好きなんだ。


 ……だから僕は、彼女達の選んだ自分になりたいと思った。



◇◇




 学校で家での食事事情を話したら、雪ちゃんが自分に作らせてと言ってきたので、有難く作ってもらう事にした。


 本当は僕も作れればいいんだけど。


 って考えてたら玄関が鳴って雪ちゃんが家に入ってきた。雪ちゃんが家に来るのは初めてで、学校帰りなので制服のままだ。


 杏子と僕は、もう私服に着替え終わっている。僕の私服はどっちかって?知りたい?実は……普段も女子の服に変えるようにしているんだ。今日は白のワンピースだから見られると恥ずかしいかも?


「おじゃまします?」


「来たか雪っち!」


 あれ?今日は……いつもの甘々杏子じゃないね?学校バージョンなの?


「いらっしゃい雪ちゃん。狭い所だけどどうぞ?」


「おたるん?お前が言うか?」


 ……だってここ僕の家でもあるでしょ?あれ雪ちゃんがこっち見て怖い顔してるよ?


「で……ここが例の愛の巣ですか?」


「そうだ!おたるんとの愛の巣だぞ?はっはっは!羨ましいか?羨ましいだろう?羨ましいといえぃ!」


 ……なんかいつもより杏子は楽しそうだな。イェイとか言っちゃって。


「うらやま……けしからーん!!」


 雪ちゃんが、ちゃぶ台返し?みたいな勢いで叫んでいた。

 この二人って実は、息合ってるんじゃない?って思う時あるんだよね。


「おたるんと私は家族だし?姉妹だから?一つ屋根の下でもいいのさ!」


「でも付き合ってるじゃない?それって狡いよ?」


「あー実はさ……」


「おたくんは黙ってて!」


 あーはい。


「今日は二人の調査をしに来ました!私だっておたくんの彼女になったんだからいいよね?」


「ふっふっふ……私と雪っちの間には、越えられない壁があるのが分からないかなぁ」

「壁ですって?」


「ここでクイズです!私とおたるんは毎日どこで寝ているでしょうか?」


「え?ちょっと、待って調べてくるから!」

 

 そう言うと雪ちゃんは、この家の部屋を全部まわって来た、と言ってもリビングとキッチンに物置に寝室しかない。そして寝室にはベッドが一つのみ。


「はぁ、はぁ!無い!無いわ!寝る所が無い!」


「ぶぶー外れ!」


 あちゃー外れだよ。


「嘘だ!だって!布団の数も数えてきたけど、布団はこのベッドの上にしかなかったわ!」


「はい!正解です!」


「え?」


「正解は?一つの布団で寝てまーす♡」


「きゃあああああああ!!」


 もうやめて!とっくに雪ちゃんのライフはゼロよ?


「雪っち弄りはここまでにするとして、雪っち、今日は料理を頼む!この家には料理を作れる人がいないのだよ!」


「……って話を変えて!後でまた聞くからね!」


 やっと料理に取り掛かってくれた雪ちゃんだったけど、後が怖いな。


 雪ちゃんが言うには、今日は簡単なポトフを作ってくれるとか。ポトフって何?


「杏子、うちに炊飯器ってあったっけ?」


「おたるん?家にあると思うか?」


 え!無いの?マジで?


「いいか……ご飯なしでも、そういえば電子レンジは?」


「それならレトルトとか、冷凍食品用に買ってあるぞ?エッヘン!」


「で、それはどこに?」

 

 電子レンジが……台所どころか、どこにも見当たらないんだけど?


「倉庫部屋の箱の中?」


「まさかの買ってそのまま!?」


 だめだ杏子こいつこんなやつだったっけ?


「まさか包丁とか、ピーラーとかも無いんじゃ?」


「持ってきたから大丈夫だよ?安心して?」


 まさか鍋も?持ってきた?学校から?


 もう突っ込むのは止めよう……。


「もうすぐ出来るからね、鍋しかないけどごめんね?一応うどんも入れて、ポトフうどんにしておいたから」


 うどんなんて入れて……味は大丈夫かな?


「そういえば食器は……無いよね?」


「持ってきたから大丈夫!」


 あるんだ?ありがとうドラ〇もん!


「雪ちゃんは気が利くなぁ……嫁に貰いたいくらい」


「何言ってんの?女の子同士だから結婚はしないって言ってたでしょ?……でも一緒に暮らすのはいいよ?内縁の妻ってやつ?もしくは同棲?」


「……うん、ありがとう雪ちゃん」


「……だから今日から私、ここに住むから!内縁の妻?」


「ちょ、雪っち!?」


「もちろんいいよね?杏子ちゃん?」


「愛の巣がぁぁぁ!でも寝るとこ無いから床で寝る?」


「もちろん、布団くらい用意するよ?」


「家が狭くなるぅ!」


「まぁまぁ……杏子は生活能力無いんだから我慢しよう?」

「それ!おたるんに言われたくなかったよ?」


「うん……そうだよね、ごめん」


「それより食べよう?」


「「いただきまーす!」」


「うま!」「結構いけるな!うまいぞ」



 雪ちゃんが作ってくれたポトフうどんは、とても美味しかった。


 




 読者様へ


お読みいただきありがとうございます。


もっと続きを読みたいと感じて下さいましたら

☆☆☆、♡を頂けたら嬉しいです。

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