第10話 吉田おたる女の子になる



 吉田おたるとして名前を変えた僕は、学校に通うのにはそのままでは問題があると言われてしまった。


 生理も来ているし、ブラジャーとショーツを付けているので、そのまま男子として通うといろいろ問題があるという事で、新たに女子の制服を与えられた。


 男か女か選ぶにしても、一度両方経験しておかないと、どっちを選ぶのか判断基準があった方が良いと先生には言われた。


 杏子もこればかりは仕方ないよと言うので、僕は初めて女子の制服に袖を通したんだ。


「……杏子、制服似合うかな?」


「うん、似合ってるけどさぁ……私としては、お兄ちゃんはお兄ちゃんでいて欲しいんだけどなぁ……私の男の子は小さいままでいて欲しいけど……」


「え?何か言った?」


「ううん?何も?」


 生理の処置の仕方は杏子に十分レクチャーを受けているので、いつ来てもいいように、いつも持ち歩くようにしている。月経に乱れが出る時もあるとかで用心に越した事はない。


 僕が女子になったとしても、杏子は僕の妹であり、彼女なので一緒に登校する。

 同じ家に住んでいるので当然と言えば当然なんだけどね?


 手を繋いで学校までの短い距離を歩く。もちろん恋人繋ぎ。


「お兄ちゃんは、女の子になってもクラスはそのままなのかなぁ?」


「僕は杏子のクラスが良いんだけどね?」


 確かにあのクラスでは、居心地が悪いかもしれない。

 虐めていた男の子が、ある日女の子になってたらどう反応するんだろう?


「先生に相談する?転校生扱いってことで」


 結局やっぱり、先生に相談してみることにした。直接教室には行かないで職員室へ寄って相談すると、女の子の姿の場合は別のクラスにしてくれるとの事だった。


 男の制服なら1組、女の子の制服なら2組って感じになる。


 という事で、僕は杏子と同じクラスに女子として転入することになったんだ。


 今日は転入日という事で、先生と一緒に1年2組へ移動する。


 先生に呼ばれたので教室に入って挨拶をする事になった。


「今日は転入生を紹介するわ。入って?」


「はい。僕、……私は吉田おたるといいます。同じクラスの渡月さんとは姉妹になります。よろしくお願いします」


 杏子はまだ学校の登録が渡月という苗字なので教室での呼び名は変わっていない。


「えー?杏子って妹いたの?マジやばじゃん?」

「超かわいい!でも杏子には似てなくない?」

「彼氏はいるんですか?」

「良い句が浮かんだわ」


「か、彼氏はいません!」


 彼女はいるけど。彼氏はいないよね?


「はいはいそこまで!えっと席は窓際の後ろでいいかしら?机と椅子を用意するわ」

「はい。よろしくお願いします」


 座席は用意されていなかったので、先生が運ぶのを手伝う事になった。


「んしょ」


 一時間目には間に合わなかったけど机は何とか運び入れることが出来た。

 こういうのは普通予め用意してあるものだけど、転入が今日の今日だったから仕方ない。


「机運ぶの疲れたー。もう一生分働いた感じ?」


「あはは!おたっち面白ーい!一生分ってマジヤバイじゃん?」


 僕は下の名前で「おたっち」とか「おーちゃん」「おっちゃん」とか呼ばれるようになった。「おっちゃん」は止めて欲しいまじで。


 杏子からは「おたるん」または「お姉ちゃん」と呼ばれる。


 そして新しく女子が転入したとなると、集まってくるのが野次馬だ。


 新しい転入生を一目見ようと他のクラスからも見に来たりする。


「え?おたくん?」

 

 隣のクラスのいや、僕のいたクラス1年1組の幼馴染。今泉雪代がやってきた。


「こんにちは?初めまして?今泉さん」

「どこから突っ込めばいいの?初めましてで名前呼んでるよ?」

「私は今日から2組に転入してきた……吉田おたるです?」

「吉田?え?おたくん?いつ名前変わったの?」

「杏子とは姉妹になります?」

「え?そこ突っ込んでいいの?」


 見かねた杏子が雪ちゃんとの間に入って説明しようとしている。


「はいはい!幼馴染のえっと、誰だっけ?」


「今泉雪代です!」


「雪っち!説明すっからこっち来な!」


 雪ちゃんは杏子に連れられて教室を出て行ってしまった。ちゃんと説明してくれるかな?



◇◇


 

 渡月さんは、私を連れて誰もいない空教室に入っていった。


「おたるの本当の父親が見つかって、それが私の義父だったんだよ。……ってわけで、今おたるは、私の家族になったんで私の家に住んでるってわけ」


「ええええ?」


「苗字が変わったのは、親が離婚したからで……ええい!ややこしい」


「で、先生に女の制服で通うように言われたんで、いっそクラスも変えてもらったという事」


「そうなんだ……もう、おたくんが女の子になってたんで、ビックリしたよ?」

「だろうね、だからクラス替えしたんだよ」

「でも渡月さん?このまま、おたくんを女の子にしちゃっていいの?貴方彼女でしょ?」


 渡月さんは頭をかいて悩むようなそぶりを見せる。


「私はね?男が苦手なんだよ」


「え?でも……おたくんは男の子だったでしょ?だから付き合ってたんじゃないの?」


「……おた……が……からだよ」


「え?」


「だから、おたるんの!アレが可愛かったから付き合ってんの!」


「ええええ!?私と同じ?」


「は?」


「私も……おたくんの、小さいのが大好きなの!」


「ええ?」


「大きいのは気持ち悪くて吐き気がするの」


「なんだよ……私達、似た者同士って事かよ!」


 ……渡月さんがおたくんを好きになった理由は私と同じだった。


 実は、私達って本当は気が合うのかもしれないな。





読者様へ


お読みいただきありがとうございます。

もっと続きを読みたいと感じて下さいましたら

☆☆☆、♡を頂けたら嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る