第8話 義父との対決




 一週間後。


 DNA親子鑑定結果が出たので、DNA親子鑑定報告書を念のためコピーを何枚も用意してから、私はおたるんを連れ父の勤務先である総合病院へ足を運んだ。


 あの義父は油断ならない。私達に何かあった時のため、母も連れてきている。


 病院は何かと忙しい。外科医ともなると手術の予定もあるし、急患の対応など時間を空けるのも大変だという事も分かってはいる。


 だから開いている時間の隙を狙って、面会の申請を出しておいた。


 いよいよ義父との戦いだ。


 コンコン!


「どうぞ、空いてるよ?」


「失礼します」


「……ふむ、久しぶりだね杏子。俺の女になる決心はついたのかな?」


「ふん、汚らわしい!」


「嫌われたもんだな。俺は杏子の事をこんなにも愛しているのに」


 そう言うと義父は私の顔に手を当てようとして来た。


「触るな!誰が貴様の女になんかなるもんか!」


 私はその義父の汚らわしい手を払った。


「おっと、危ないな……。ふぅ……時間もないんだ。それで今日の要件は何だ?」


「これを見なさい!」


 私はおたるんと義父のDNA親子鑑定結果報告書を手渡した。


「なんだ?DNA鑑定?はは……俺に子供なんている訳が…………は?」


 義父は冷や汗を垂らして、鑑定結果の親子の確立100%に目を顰めている。


「あんたが高校の時付き合っていた、田中美月の子供。覚えてないの?」


「あの時の?いや確かに美月は妊娠してしまったが、おろすって言っていたはず……それに中絶費用も渡しているし……もう終わった事だと……」


「田中美月はおろさなかった!よっぽどあんたが好きだったか……子供を殺せなかったか……どっちにしろ!あんたの子供!田中おたるは生きているんだ!」


「それで俺にどうしろと?母親だっているんだろ?もう俺には関係ない事だ」


「母親は育児放棄して蒸発!見受け先の祖母は痴呆で生活の能力は皆無!」


「な……生んでおいて放棄しただって?無責任な……」


「あんたにそれが言えるの?無責任!?笑っちゃうわ!あんたが私をレイプしようとした事は絶対に許さないから!なんなら病院中に言いふらしてもいいんだよ!」


「……それは、すまなかった。だから言いふらすのは止めてくれ。俺の人生がかかっている!」


「条件しだいね」


「……俺に何をしろというんだ?」


「田中おたるの認知!それから私の所で預かるから、ちゃんと自分の子として引き取りなさい!」


「それだけでいいのか?」


「ついでに田中おたるの母の面倒も見る事!それが条件よ!」


「分かった、そう手配しよう」


「……では入ってもらうから、おたる!入っていいぞ!」


 ガラ!おたるんと母の渡月美由紀が部屋に入ってきた。


「美由紀……聞いていたのか?」


「あなた……おたる君は、私達の子として育てましょう?」


「あの、僕はどうしたら?」


「挨拶しな?おたる。お父さんとお母さんに」


「えっと、渡月さんのお父さんに、お母さんですね?僕は、田中おたるです。訳あって杏子さんとはお付き合いさせてもらっています。よろしくお願いします?」


「「ええええ!?お付き合い!?」」


「そうよ!私の彼氏よ!それから、おたるんは両性具有だから、親としてしっかりサポートしなさいよね!」


「「ええええええええええええええええ!!」」


 流石に両性については寝耳に水だったらしく、義父も母もびっくりしていた。



◇◇



 僕は何か分からないうちに渡月さんの家族になった。渡月さんは1月生まれだったので、8月生まれの僕は兄?姉?ということになる。


 手続きはまだ時間がかかるみたいだけど、僕のお父さんは渡月さんの義父おとうさんだったらしい?うん、良く分からない。

 

 渡月さんが、僕のDNA鑑定をしてくれて僕の父親が判明したとかなんとか?


 とにかく僕は渡月さんと家族になったんだ。こんなに生きてきて嬉しい事は無かった。


 そして、僕は渡月さんの家族に引き取られたので、渡月おたるに名前が変わって、渡月さんの家に引っ越すことになった。


 荷物は着替えと勉強道具とベッドしか無かったので、ほとんど手ぶらでの引っ越しだ。


「おたるん?……えと、お兄ちゃん? 今日から、ここ私の家が、お兄ちゃんの家だからね?それから部屋は……荷物でいっぱいだから、……私と……一緒に寝る?」


「いいけど?」


「え?え?いいんだ?」


 渡月さんは学校で話す話し方と、家族と話す話し方に違いがあった。


 多分学校では、精神的に壁を作っているのかな?


「渡月さん……」


「その渡月さんってのもうやめよ?お兄ちゃんも、渡月さんなんだよ?」


「あぁ、そっか……じゃあ……どう呼べばいい?」


「杏子。妹なんだから呼び捨てでいいよ?」


 いきなり?それは恥ずかしいよ?


「杏子……ちゃん」


「惜しい!」


「だってまだ、恥ずかしいよ?」


「いやだ!杏子って呼んで!」


 渡月さん、もとい杏子は少し我儘なところもあるようだった。


「分かったよ、杏子♡」


 僕は妹になった杏子に顔を近づけると、杏子も顔を赤くしていて目を閉じて……そのまま二人の口は重なり合った。



 ……杏子とのファーストキスは涙の味がした。








読者様へ


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