あんな風に空は飛べやしないから、僕はただ地を這う

日常を面白く書いた私小説かしらん。
使われている語彙の組み合わせやズレを描き、現実とちょっとちがう印象、違和感の積み重ねのバランスの良さが面白さを生み出しているのだ。


埋葬後、「僕は、クマバチを埋葬したりして、一体どういうつもりだったのだろうか?」と冷静になる。
その答えは書かれていない。
おそらく、クマバチが主人公自身に見えたのだ。
将来の悲壮に打ちし枯れた自分自身と弱っていたところを他人に踏みつけられ干からびたクマバチの姿とが、重なったのだ。
誰も助けてくれない、そんな打ちし枯れた自分がクマバチを助けることで、間接的に自分自身をも助けることになる。 
他の誰でもない、どうしても主人公がやらなければならないことだったのだ。

クマバチと埋葬したのは、誰にも救われなかった主人公の心。
翅を大事にしまったのは、「人生の道しるべとして」とあるように、この日を忘れないものにするため。
人生の一里塚としたのだ。