第38話 日常

「今日はトレーニングしてもらいます」

 昨日は県外のダンジョンに行こうとは思ったが、どれもこれまで探索したダンジョンよりも大きく、ボスの場所に到着することはできないだろう。体力が尽きて、ボスと戦うことすらままならい。現状じゃあ探索できるダンジョンに限りがある。この1ヶ月同じダンジョンばかり潜ったら味気ないだろう。

 ……そうだな、この1ヶ月の目標を隣県の大型ダンジョンにするか。

「明日からはダンジョンに潜らず、ダンジョン外に出てきたモンスターを狩ることにしましょう」

 その後これからの方針を話した。

 とりあえず今日はトレーニングをしてもらうので、探索者協会のトレーニングルームに行ってもらう。あそこの使い方と、何をすればいいかも教えなきゃな。






「あっ、あれも可愛い」

 大学生ぐらいの若者を多く見かけるショッピングモール。別に休日ではないが、地域最大規模、若者向けの店舗が多数存在していることから、人の数が異常に多い。

 そんな場所だからこそすぐにでも見失いなってしまうような小さい少女が一つのショーウィンドウの前で立ち止まる。そこに飾られていたのは少女より大きなマネキンが着こなしているちょっぴり大人な服装だった。

 少女の両手には紙袋。他の店でも買い物をしたのだろうたくさんの洋服がぎっしりと詰まっており、ショッピングモールの一から百の店で気に入った服を買った跡。最後の店に着くとショーウィンドウの中の服に恋をし、この服を買うつもりだと値札を見ずに決心をする。

「キララちゃん、どう?似合いそう?」と、後ろの人混みに語りかける。すぐに、幼い声で返答がある。

「あーちゃんにはにあわないよ〜」

 少女を追うように人混みの中から出てきたのは魔法少女、のような格好をした少女。いつも手に持っているキャンディーを持っておらず、代わりに持っているのは紙袋。

「だってしんちょうたりないよ」という、切れ味の鋭い発言に全身を震わせて過剰な反応を見せる少女。身長のことについて自分でも気にしているのだろう。

 ぽこぽこと、軽い音を立てながらキララにじゃれつく。誠に遺憾である、と。


 浜地はまち あゆ。探索者協会本部の職員で、かなり特異な能力を持つことから、キララのお目付役を任されている少女。髪はツインテールでまとめており、齢は18歳。キララと同程度の体型をしており、18歳になっても150cmしかない身長がコンプレックスの、本部有数の常識人。

 勉学も、仕事も両立させ、ここ最近は特に多忙だったが久しぶりの休み。ちょうどキララも休みだったことから一緒に買い物に来たところだが、先ほどのキララの言葉がうまく心に刺さって抜けない様子。

 とりあえず近くのカフェで心を落ち着かせる。

「キララちゃん、言ってはいけない言葉も存在するんだよ」カフェラテを飲みながら改めてキララは私たちとちょっぴり違うのだなと実感する。

「わかりました!!」

 オレンジジュースを飲みながら元気に返事をする態度に、物分かりはいいんだけど、多分何が悪くて何が良いのかがわからないままなんだろうなと、キララの能力を考えながらもそう思う。

 それにしてもこのカフェいいな、雰囲気がとてもおしゃれで、今時っぽい。

 キララは美味しそうにオレンジジュースを飲んでいる。何かスイーツでも頼もうかと思い、店員さんを呼んだ、時。キララがすんごい速さでカウンター席に跳んでった。

「えっ、キララちゃん!?」

 たまに暴走するけど、なんで店の中で跳ぶの!?キララちゃんがカウンター席にいた男性を馬乗りにして逃げれなくしている。

 けど、その男性に見覚えがあった。

「おっと?久々ではないが久しぶりキララちゃん」

 たしか指名手配中の……

「大体6話ぶりだね」

 と、キララちゃん達と遭遇して跡形もなく消えた危険人物がきらりと歯を見せて笑った。

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