第21話 あっさり

 まさか泣くのか!?

 僕の心配はよそに、だんだんと涙が溜まっていく。少女は何か遠くのものを見つめるように、その何かを後輩ちゃんと重ねるように見ていた。瞳には何が写っていたのだろう。 

 少し落ち着いたのか涙は引っ込み、次に僕のことをじっと睨んできた。…………僕のことはまだ警戒されているのか。まぁ仲が良くなることを目的とした行動をしてはいないし、そこまで僕はコミュニケーションに長けていない。夜が明けたらサヨナラだから、特にコミュニケーションをとる必要は無い。


 キッチンから水が流れる音がする。

 …………静かだ。

「先輩、そんな睨み合ってどうしたんですか」

 キッチンから帰ってきた。

「もう寝てておいていいぞ、あとは僕が見ておくから」

「迎えが来るまでずっと睨み合うんですか?」

 やることがないし、そうなるだろうな。

「えっ、睨み合うんですか……そうですか」

「睨み合うというか、何か変なことをしないように見張っておくんだよ」

「それは分かってますけど、先輩ってほら、眼光が鋭いという訳じゃないんですが、人を殺すときは殺せる目をしているんで、じっと見られると怖いんですよ」

 怖いか?よく目が死んでいるとは言われるが、そんな目をしてるわけはないぞ。

「ソースは今さっきの私です。怖かったです」

 …………。

「というわけで、私もここにいますよ。喋っておきます」

「言葉が通じないぞ」

「頑張れば言語の壁なんて越えれるんですよ!!!」

 そんな無茶なことを言いながら、少女の前に座る後輩ちゃん。元気よく喋りかけている。ジェスチャーを挟んで、頑張って意思を疎通しているようだ。

 少女の方とはいうと、今さっきのカレーが功を奏したのか、敵対反応は見せていないが困惑してる。知らない言葉で問いかけられているからだろうな。


 後輩ちゃんは眠くないのだろうか、現在夜中の2時である。22時の頃に眠くなっていた気がするのだが……何が彼女を動かしているのだろう。

 好奇心か?いや、純粋な心が動かしているんだろうな。後輩ちゃんはそういう人間だ。


 そのまま元気よく一時間。

 ぶっ続けではしゃいでいた後輩ちゃんと、途中からテンションが感化され、同じくはしゃいでいた少女は元気よく眠りについた。


 僕はずっと起きていた。


 朝、時計を見ると7時を指すか指すないかぐらい、玄関の方からチャイムが鳴った。迎えの人間がやってきたのだろう。二人はまだ眠りから覚めていない。

 少女の方にガムテープで口止めしてから、玄関に抱えて持っていく。持ち上げても起きずにすやすやと眠っている。

 玄関を開けると、二人ほどのスーツを纏った人間がいた。

「探索者協会からやってきました、原田です〜。そちらの異世界人を預かりに来ました〜」

 名乗っていない方の男が腕を広げる、渡せということらしい。そのまま少女を渡すと、二人は去っていった。随分とあっさりした別れだな。

 さて寝るか。

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