第41話 悪魔を慕うもの
「悪魔。悪魔様……」
「どうか我らの願いを……」
「どうか。どうか」
黒いフードを被った連中を前に、ディゼルは深く溜息を吐いた。
ここはとある小国から少し離れた小さな町にある屋敷。
彼らと出会ったのは数日前。ディゼル達が小国に近付いたときのことだった。
そこは遠い昔から神様を崇める神聖な地。悪魔に呪われた身であるディゼルは国の周りに張り巡らされた結界に触れてしまい、腕を火傷してしまった。
その様子を見ていた彼らに保護され、屋敷に匿われた。
話を聞くと、彼らは悪魔を信仰しているらしく、黒魔術を行っているそうだ。だから聖なる気で怪我を負ったディゼルを見て、悪魔と関わりのある者だと思って保護したと説明された。
その話を聞いた悪魔は、自分への信仰心は多少なりとも腹を満たすと言って彼らの前に姿を現した。
何より、悪魔を信仰する者は多くない。こういった者達がいるからこそ、悪魔は人間の世界に召喚されて人間の魂を得ることが出来る。つまり、貴重な存在なのだ。
「悪魔様。贄が必要であればお望みの人間を用意します」
「ほう。それは良いな」
「あなた様のためであれば、どんな手段でも厭いません」
「そうかそうか。ならば、より良い魂を連れてこい。そうすれば、お前らの望みを叶えてやらないこともないぞ」
愉しそうな笑みを浮かべながら、悪魔は信者達に言った。
だがディゼルは知っている。悪魔は願いを叶えないことを。甘い言葉を並べて、人間を騙し、最終的には召喚者や、関わった者達の魂を食らってしまう。
そうすれば、彼らの願いがどんなものであっても関係ない。叶える必要などないのだから。
「……はぁ」
ディゼルは何度目か分からないほどの溜息を吐いた。
悪魔が楽しそうにしている。それはディゼルにとっても良いことだ。しかし、自分以外の人間が悪魔に媚びへつらう様子を見るのは面白くない。
きっと悪魔もそれに気付いている。ディゼルが嫉妬で心を痛める様子を見て楽しんでいるのだ。
悪魔の思惑も理解している。彼が喜ぶのであれば現状にも耐えることが出来る。
しかし、苦しみが和らぐわけでもない。
「どうした? 今日は一段と甘い匂いを漂わせているな」
「不幸は甘い香りがするのですね」
「よく言うだろう? 他人の不幸は蜜の味と。人間も上手いことを言うものだな」
「そうですわね。悪魔様、ここにはいつまでいるのでしょうか?」
「ん? まぁ長居をする気はない。アイツらが連れてくる人間はどいつも死にかけの浮浪者ばかりで俺の口には合わない」
悪魔はやれやれと言うように肩をすくめ、溜息を吐いた。
信者達は何度か悪魔への贄に人間を連れてきたが、そのどれもが彼の言う通り浮浪者。急にいなくなっても気付かれないような、身内のいない者ばかり。
「街の人達には隠れてこういった活動をされているようですね。周囲の目を気にして大胆な行動が出来ないのでしょう」
「アイツらの信仰心でも腹は膨れるが、もう飽きてきた。やはり、俺を一番満たすのはお前だけだな、ディゼル」
「……悪魔様」
悪魔にそっと口付けをされ、ディゼルは瞳を潤ませて微笑んだ。
ズルイお方。ディゼルは心の中でそう思いながらも、嬉しくて仕方なかった。わざと信者を使って嫉妬心を煽らせてから、こうして甘い言葉を与えてくる。
「愛しています、悪魔様……」
自分だけのものに出来たら、どれほど幸せなことだろう。
そんなことを思いながら、ディゼルは悪魔の胸に頬を寄せた。
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