第31話 青年の闇
「まーじょーさーん」
今日もこの場に似合わない明るい声が響く。
そのせいか、ここに客が来る頻度も減った。ディゼルは面倒臭そうに扉を開け、訪問者の前に現れた。
「……飽きずによく来るわね」
「はい! 魔女さんが人を殺さないと言ってくれるまで!」
「……はぁ。私、その内ここを去るわよ」
「え、どうして!?」
「私は同じ場所に長居はしないの」
「そんな……」
残念そうな顔をするファルトに、ディゼルは首を傾げる。
ディゼルがいなくなれば町の人は人を殺す薬を買えなくなる。これは彼にとって喜ばしいことだろう。それなのに何故落ち込むのか。
「魔女さん……いなくなっちゃうんですか?」
「何かご不満でも?」
「寂しくなります」
「何を言ってるの?」
「僕、町でも一人ぼっちです。妹も病気で動けないし……誰も助けてくれないし……」
「私だって妹を助けられないわよ」
何を言ってるのだろう。ディゼルは彼の言葉に違和感を抱いた。
何故、一人ぼっちなのか。病気で苦しんでる妹がいるなら、一人ではないはずだ。
前々から少しおかしいとは思っていた。
病気の妹がいるのに毎日ここに来ること。誰も助けてくれないこと。医者が薬を売らないこと。
助けてくれないのではなく、助けられないのではないか。
薬を売らないのではなく、売れないのではないか。
「……もしかして、妹ってもう死んで……」
「死んでません!」
「っ!」
ディゼルの言葉を遮り、ファルトは叫んだ。
図星のようだ。彼はそれを認めてない。認められないのだろう。
「死んだ人間は助からないわよ」
「そんなこと……そんなこと……! 妹はまだ死んでない!」
「ふぅん……」
ディゼルは玄関に飾ってある花を一輪手に取り、ファルトの鼻先に近付けた。
「何故、妹は死んだの?」
「し、しん、で、ない……」
「もしかして、殺されたの?」
「ち、が……ぼ、ぼくは、僕じゃ、ない……」
「へぇ。貴方が殺したの?」
「ち、ちが、ちがう……ちがう……い、妹は、病気、だったんだ……」
段々とファルトの目が虚ろになっていく。
花の香りを吸い込み、意識が朦朧としてきたようだ。
ガクッと膝から崩れ落ちるように座り込んだファルトを抱きかかえ、ディゼルは引きずりながら部屋の中へと入れた。
どうにか椅子に座らせ、花を活けた花瓶をテーブルに置く。
「さぁ、素直になりましょう。君は妹に何をしたの? そういえば、貴方の親の話を聞いたことがなかったわね。親はどうしたのかしら?」
「お、や……親、は……し、んだ……」
「死んだ。何故?」
「……ころ、し、た……」
その言葉にディゼルは笑った。
楽しそうに。愉しそうに。
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