9 【そんだい】~【だい】

 無人島に来て半年がたった。相変わらず辞書は、船の材料になりそうな大きなものは出してくれない。まあ、食べるわけがないから当然なのだけれど。「芋煮」を引き当てたときは大きな鍋が手に入るかもしれないと思ったけれど、どんぶりに入ったものだった。ちゃんと一人前というところは考えて出しているようだ。

 とはいえこれだけ経つとかなり漂着物も手に入った。現代の海が汚れているのは本当らしく、様々なものが流れ着く。運よくペットボトルが大量に手に入るなんてことはないが、それでも十本ほどは溜まった。最悪筏を作るとすれば浮力にはなるだろう。発砲スチロールなんかもいくらかは流れてきた。とはいえそれだけでどうにかなるほどの量ではない。

 辞書がお情けか砂を出してくれたので、果物の種を植えてみたら芽が出てきた。これが育てば木材になるが何年後になることやら。

 あいにくの雨。風も強い。こんな日は辞書から食材を得るに限る。

「おおっ、ついに鯛かー」

 目の前に、立派な鯛が現れる。

 実は、ずっと挑戦していたものの釣れていなかった。まあ、そんな簡単に磯で釣り上げせれるものではない。

 他には、呼び出せそうなものはなかった。今日は鯛でごちそうとしよう。



本日の辞書めし

・鯛飯(昆布だし)



 二か月ほど前に「鍋」で手に入れたお鍋で、ご飯を炊く。その中に鯛を入れる。昆布もあったので、細かくして入れてみた。ちなみに「鍋焼きうどん」もあったので、少し小ぶりな鍋もある。

 炊きあがった鯛飯は、絶品だった。魚と昆布がしみ込んで、ご飯が深みのある味になっている。

 しみじみと味わったあと、虚しさが訪れる。毎日、食事しか楽しみがないと言ってもいい。辞書がなければ、とっくに死んでいたかもしれない。その方が、諦めもついたかもしれないのだ。

 正直、船も完成しそうな気がしない。資材もないし、俺の技術もない。

 鯛の味がうまければうまいほど、不安も増していくのだった。


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